■システムの導入に先立つもの:小さな組織のシステム化事例再論

    

1 どんなシステムを導入したのか

システムの専門家とお会いした時、先日ご紹介した魚屋さんのIT化の話について、いい話ですねとおっしゃっていただきました。PRESIDENT Onlineに載った記事「魚屋の跡取り娘が強行した現場のすごいDX 2店舗から12店舗に急拡大」のことです。

題名に「すごいDX」とありますが、記事には、どんなシステムを導入したのかが書かれていません。よい機会でしたので専門家に、この記事を読んで導入されたシステムが、だいたいどんなものであるか、想像がつきますかとお聞きしてみました。

当然、おおよその概要はわかるとのこと。ではご自身の会社で対応できるでしょうかと、確認してみると、いやあ…とても無理ですというお答えでした。導入されたシステムはシンプルなものに違いありません。そうなると規模が小さすぎて、対応できないのです。

     

2 小さなシステムで十分だという見極め

システムを導入して成功したというケースを考えると、どうしても高性能のものを想像しがちです。そのシステムを使った快適な仕事を思い浮かべるかもしれません。ただしコストを考えると、とてもじゃないが導入できないという結論になるのが通例でしょう。

しかし業務の面から見ると、シンプルで小さなシステムで十分なことがよくあります。業務の把握が出来ていて、小さなシステムで十分だという、見極めがつくということが重要なポイントです。魚屋さんのIT化の事例でも、業務の把握が先でした。

業務を把握し、整理できたら、どんな機能が必要だと言えます。そうなればシステム化は成功するはずです。記事の事例でも、シンプルなシステムですから、導入にともなうシステム面でのトラブルはなかったと思われます。記事にもそうした記述はありません。

      

3 システム化に向いた領域の発見

業務の整備をして、現状の問題点が見えてきたら、おのずからシステム化の領域が絞られてきます。すべてをシステム化する必要はありません。先の記事にあった魚屋さんで、何が行われたのかを確認してみましょう。けしてシステム化ありきではなかったのです。

記事によると、跡取り娘の森朝奈さんが行ったことは、[ホームページや店舗のメニューデザインのリニューアル、会社ロゴの作成、スタッフに向けた行動指標の制定、就業規則の整備など]でした。会社のブランド化と、ルールの整備を重視しています。

「父がいないと回らない」状況を解消する際、最初に手をつけた受発注の業務は、システム化に向いた領域でした。一方、デザインの見直しやロゴの作成はシステムに直接関わる領域ではありません。行動指針や規則の整備は、完全に業務構築の領域です。

システム化に向いた領域が、システム化されずにいる場合、たいていシンプルなシステムを導入するだけで、大きな成果を上げるようになります。そのために業務全体の把握が不可欠です。業務を把握して、システム化に向いた領域を発見することが鍵になります。

       

*PRESIDENT Onlineに載った記事
「魚屋の跡取り娘が強行した現場のすごいDX 2店舗から12店舗に急拡大」

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