■事業の定義と顧客:目標をどう決めるか その10

1 顧客の創造という目的

ドラッカーの本を読まない人でも、「顧客の創造」という言葉を聞いたことがあるかもしれない。そのくらい有名になった。『マネジメント』でも、この「顧客の創造」が重視される。『チェンジ・リーダーの条件』part2・2章に、この部分が所収されている。

▼企業とは何かを知るには、その目的から考えなければならない。企業の目的は、それぞれの企業の外部にある。企業は社会の機関であり、その目的も社会にある。企業の目的の定義は一つしかない。それは、顧客を創造することである。 p.28

ドラッカーはここで、「企業の目的」=「顧客の創造」という考えを提示して、事業の定義をする場合においても、顧客から出発せよと主張している。したがって、顧客を創造するために、どうしたらよいのかを考えよ…という主張になる。

ところが1994年の「The Theory of the Buisiness」(『チェンジ・リーダーの条件』の「事業を定義する」)では、出発点を顧客においているわけではない。およそ20年の時間を隔てた両者のアプローチはいささか違う。この辺を確認しておきたい。

 

2 「顧客から出発せよ」

[「われわれの事業は何か」を問うことこそ、トップマネジメントの第一の責任である]とドラッカーは『マネジメント』で言う(『チェンジ・リーダーの条件』p.33)。この問いを発することが、[企業の目的としての事業内容を十分に検討]することになる。

ここに「企業の目的=顧客の創造」を代入すると、どうだろう。「顧客の創造をするための事業内容を十分に検討すべき」であるということになる。これがマーケティングの基礎ということである。[真のマーケティングは、顧客から出発する]とドラッカーは言う。

▼「われわれは何を売りたいか」など考えない。「顧客は何を買いたいか」を問う。「これが、われわれの製品やサービスにできることだ」とはいわない。「これが、顧客が求め、価値ありとし、必要としている満足だ」という。 p.30

こうした発想は、販売との関係を見ると、もっと明確になる。[販売とマーケティングは逆である。同じ意味でないことはもちろん、補い合う意味さえ持たない]のであり、[マーケティングの理想は、販売を不要にすることである](p.30)ということになる。

 

3 顧客よりも多いノンカスタマー

『チェンジ・リーダーの条件』では、『マネジメント』の「われわれの事業は何か」につづいて「事業を定義する」が置かれている。これが、1994年の論文「The Theory of the Buisiness」である。この論文では、事業を定義するときに、顧客から出発していない。

ドラッカーは[IBMやGMで長年にわたって通用し、特にGMでは新しい事業で今も通用している方針、方法、プロセスが、本業で通用しなくなったこと]を指摘する。[両社は、現実が変化したにもかかわらず、事業の定義を変えられなかった](p.51)のである。

それはなぜなのか。重要なポイントの一つになるのは、顧客への視点である。ドラッカーは[顧客について知ることも重要である]という言い方をしている。しかし[ノンカスタマーの数は、顧客よりも多い](p.57)という点を指摘するのである。

 

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