■グランドデザインの必要性 :リーダーになってしまった人へ その18

1 リーダーの責任

リーダーは、「いかにあるべきか」を明確にするように求められる。それがリーダーの役割である。「どうするの?」「どうしたらいいの?」と聞かれるのがリーダーである。ビジネスでは多数決が成り立たない。多数決では、競争に勝てないからである。

どうすればよいのか、各担当が考えなくてはならないのは当然のことである。ところが、ある時、どうしたらよいのかが分からなくなる。大きな決断が必要になることが出てきた場合に、リーダーに判断を仰ぐことになる。これは影響の大きさから当然である。

大きな決断の場合、各担当者が独自で責任を取るわけにはいかない。全体の状況に大きくかかわる場合、リーダーの判断が必要になる。しかし、じつは責任だけの問題ではない。リーダーがここぞというときに、決断する効果には、別の意味があるといえる。

 

2 「存在問題」の解決

「存在問題」の解決がリーダーの役割である。「こうしよう!」というケースには、「解決策はあるけれども、まだ解決策がわかっていない場合」と、「そもそも解決策があるのかどうか、わからない場合」がある。どちらが、やる気になるかは明らかだろう。

解決策があるとわかっている場合なら、やる気になる。したがって、リーダーの言うことなら解決策があるだろうと思わせなくてはならない。小室直樹は『数学を使わない数学の講義』で、ケネディの「月着陸」という公約の背景に、存在問題があったと指摘する。

19世紀末にフランスのコーシーという数学者によって、微分方程式に解があるかどうかを見抜く方法が見出された。宇宙開発は微分方程式で表現されるため、微分方程式に解のあることがわかったので、[コンピューターで、解に限りなく接近]したのだという。

アメリカの科学者たちは[ケネディに対しても「これだけの予算を俺たちにくれて、これこれの時間をくれれば、こういう宇宙船を開発して、これだけの確率で人間を月に送れます」(pp..29-30)と言えたので、ケネディは公約に出来たということである。

 

3 グランドデザインを描く

リーダーが無理難題を言うように見えても、その人がグランドデザインを描けていると思われたなら、存在問題の解があると判断される。この人が言うのなら、大丈夫だということになる。その場合、やる気になることで、実際の解決策が見いだされる可能性が高い。

▼「私は海峡のあり場所を絶対に知っている」といったのが、マゼランである。もちろん、これは、確信にみちたハッタリで、知ってるはずなどなかったわけだが、それに運命を賭けた。(中略)当時の探検家にとって、最大の問題は何であったのかと言えば、大西洋から太平洋へ行く環境が本当にあるのかどうかということ、つまり存在問題であったのだ。 (pp..35-36:『数学を使わない数学の講義』)

仕事が見えている人だという信頼は、大きな問題でも解決できるという信頼感である。原則をシンプルに明文化して提示したのがミッションであり、ここから個別具体的なゴールを設定することによって、目標設定がなされる。目標を決めるには戦略が必要である。

戦略とは、ビジョンとか構想という言葉に言い換え可能な概念であり、同時にこれらすべてを統合した概念ともいえる。ゴールに達するグランドデザインである。これがあるからこそ高くても実現可能な目標が立てられる。では、これを誰が中心になって描くのか?

 

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