■スマイルカーブと業務の品質 その2


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4 アウトソーシングのリスク

業務のアウトソーシングは、もはやめずらしいことではありません。しばしば見られることです。社員でない人たちに大切な業務を担ってもらうことは、もしかしたらリスクを負うことになるかもしれません。そういう事例が目につきはじめています。

たとえば、予約受付がアウトソーシングされていることがよくあります。お客様と接触する部門ですから、会社にとって大切な第一印象に大きくかかわる部門です。しかしその部門をコスト重視でアウトソーシングしてしまっています。大丈夫なのでしょうか。

当然のことですが、業務のブランド化という観点からすると、予約受付の部門をアウトソーシングするのは危険です。これは以前から問題になっていました。現在、どう構築するのが合理的なのか、もう一度再検討する必要に迫られています。

具体的な事例を見てみたいと思います。現在進行形の、まだ差しさわりのある事例をぼやかしてお話するよりも、実際の会社名をあげてのお話の方がよいでしょう。『星野リゾートの教科書』にある事例は、10年以上前に行われたものです。

アウトソーシングにされがちな予約センターを、自社部門にしています。沖縄に統合予約センターを新設して、日本各地の旅館・ホテルの電話予約を一括して対応するようにしました。そこで働くスタッフはトレーニングを受けたプロの電話対応をしています。

 

5 コモディティ化を乗り越える方法

星野リゾートの星野社長は自社の施設を選んでいただくために、コモディティ化を乗り越える戦略が必要だと思ったそうです。他とは違う差別化が必要でした。施設をどうしたらよいのかという発想ではなくて、別の角度からの差別化が必要です。

そのとき、製品やサービスの質に差がなくても、お客様が買いやすくなっていれば、そこで差別化できるということに気がつきました。このことは、『The Myth of Excellence』という本にあったそうです。アクセスを高める必要性が書かれていました。

予約業務を独立させて、他の業務の片手間とは違ったプロの対応にまさせたのです。お客様との最初の接触となる予約を受けつける統合予約センターを設置して、施設ごとの対応ではなく、日本全国の予約を一括して受け入れることになりました。

このとき電話対応のプロがきちんとした対応をしたならば、会社のイメージが違ってきます。業務の品質を上げるためには、他の仕事との兼務は負担が大きくて好ましくありません。そうであれば、プロを養成することが一番よいということになります。

実際、電話対応を改善していった結果、[お客様が宿泊予約までに必要な電話の時間は短く]なり、[ホテルで電話を受けていたときに約3分30秒かかっていたのが、センターへの移行後は約2分30秒へと短縮された](p63 『星野リゾートの教科書』)のです。

 

6 マルチタスクから外した業務

星野リゾートはマルチタスクを行う会社です。一人が、様々な業務を覚えて、対応できるようになっているため、そのときどきで最適な業務担当を決められます。効率的な運用ができるので、残業も減っていきました。こうした効率化には効果があります。

しかし業務のレベルを上げるときに、マルチタスクだけでは解決のつかない問題が出てきます。これは予想されたことでした。マルチタスクから外さなくてはいけない業務の一つが、お客様との最初の接触の機会となる予約電話の受付だったのです。

[星野リゾートは、各施設ごとにフロントや客室清掃など複数の仕事を兼務することによって業務効率を上げてきた](p.62)のでした。しかし業務の種類が違うとマルチタスクがうまく働きません。そこで[予約業務を統合予約センターに移した]のです。

電話対応のプロに任せることによって、[お客様の利便性が高まり、予約件数が増加し]ました。そして[スタッフは予約の仕事がなくなったことで、別の業務に注力できるようになった]のです。それが[顧客満足度の向上に結びついて](p.66)いきました。

一番下流に位置する電話対応の業務を独立させ、プロ対応にすることによって脱コモディティ化、ブランド化を図りました。いままで兼務していたスタッフの負担を減らして、本来の業務の品質を上げることで、接客に関する業務もブランド化したのです。

現状では、さすがの星野リゾートでも苦戦していることでしょう。しかしアフターコロナを見すえて、業務のブランド化の試みに注目が集まっています。目の前で、業務品質の差によって、まさかまさかの大きな差がついてしまった実例があるからです。

 

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