■ドラッカーの「顧客の創造」について その2


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4 『マネジメント』の2つの「目的」

ドラッカーの『マネジメント』では、第6章で企業・ビジネスにおける唯一の目的として「顧客の創造」をあげています。第4章では、企業・ビジネスと公的サービス機関の違いについて、「経済的成果」をあげる社会的な機能があるかどうかの違いだとしています。

こうした点からすると、「顧客の創造」を通じて、経済的な成果を上げるのが企業・ビジネスの目的だということになりそうです。実際のところそう読んでも、何ら問題が生じません。『マネジメント』には、これとは別の「目的」も示されているのです。

第4章でも第7章でも「目的とミッション」という言い方がなされています。第4章では「それぞれの組織に特有の目的とミッション」と表現されました。第7章では「事業の目的とミッション」とは「自らの事業を定義」することだということです。

『マネジメント』には目的の概念が2つあるということになります。一つは、顧客の創造という企業・ビジネスの目的。もう一つは、各組織ごとに決める組織の目的・ミッションです。後者が『現代の経営』よりも強調されているということになります。

 

5 事業の定義:目的とミッション

「それぞれの組織に特有の目的とミッション」を明らかにするということは、「自らの事業を定義」するということです。もう少し具体的に言うと、[「われわれの事業は何か。何であるべきか」を考えなければならない]ということになります(上・p.91)。

これを考えるのが、リーダーだということです。それぞれの組織が自らの事業を定義すべきであり、その定義をするのがリーダーだというのが『マネジメント』におけるドラッカーの説明です。リーダーであることと不可欠な関係にあたります。

▼「われわれの事業は何か」を問うことは、トップマネジメントの責任である。あるポストがトップマネジメントのポストであるかどうかを知る最も確実は方法は、そのポストにある者が、「われわれの事業は何か」を考えることを期待されているかどうかである。 pp..96-97

こうしてリーダー、トップマネジメントが事業、ビジネスがどういうものであるかを決めることになります。このことが、企業の目的とミッションを定義することになります。個々の組織がそれぞれの「目的とミッション」「事業の定義」を決めるのです。

▼企業の目的とミッションを定義するとき、そのような焦点となるものは一つしかない。顧客である。顧客によって事業は定義される。 上・p.99

以上から、ドラッカーは言います。[「顧客は誰か」との問いこそ、事業の目的とミッションを定義するうえで、最初に考えるべき最も重要な問いである](p.100)。この問いは、『経営者に贈る5つの質問』にもあるものでした。

 

6 非営利組織のための「自己評価手法」

『経営者に贈る5つの質問』はドラッカーの晩年の考えをもとにした本でした。もともと非営利組織向けのものでしたが、営利組織のリーダーにも役に立ったのです。NPOなどの非営利組織の経営が、営利組織のマネジメントに影響を与えるようになりました。

ドラッカーは、こうした非営利組織のマネジメントが営利組織のマネジメントを考えるうえで不可欠になってきたことを1989年に「会社はNPOに学ぶ」に書いています。そのエッセンスは、『経営者に贈る5つの質問』における5つの質問になりました。

質問1「われわれのミッションは何か?」
質問2「われわれの顧客は誰か?」
質問3「顧客にとっての価値は何か?」
質問4「われわれにとっての成果は何か?」
質問5「われわれの計画は何か?」

こうした5つの質問は、いつ頃出来たのでしょうか。ドラッカーが『非営利組織の成果重視マネジメント』の「まえがき」に書いています。1990年に「非営利組織のためのピーター・F・ドラッカー財団」ができた後、「自己評価手法」を開発したとのこと。

この「自己評価手法」として示された5つの質問は、上記にあげた『経営者に贈る5つの質問』のものと同じです。[この5つの質問はいかなる非営利組織にとっても重要な問題を提起している](『非営利組織の成果重視マネジメント』の「まえがき」)。

1990年に『非営利組織の経営』の出版後、こうした手法が開発され、最初の出版は1995年だったようです。上田惇生は『経営者に贈る5つの質問』訳者あとがきで、[1990年代に非営利組織用に開発され、その後、広くあらゆる組織で使われている]と記しています。

 

7 顧客の創造:マネジメントの目的

ドラッカーの後期のマネジメントでは、もはや「顧客の創造」という概念は、企業、ビジネスに限られた概念ではなくなりました。「顧客の創造」という概念を会社の目的、営利組織の目的、企業、ビジネスの目的に限定するのは、もはや妥当ではありません。

「顧客の創造」に対する『マネジメント』の記述は修正する必要があります。[企業活動とは、マーケティングとイノベーションによる顧客の創造である。したがって、企業をマネジメントするということは企業家的な活動である](上・p.90)という点です。

非営利組織のマネジメントが営利組織からの影響によって形成され、それが逆に営利組織に影響を与えるようになりました。上記の「企業活動」という部分を、「組織の活動」と言い換え、「組織をマネジメントする」にしなくてはならないでしょう。

非営利組織のマネジメントにおいても、企業家的な活動という要素が入ってくるというです。あらゆる組織で「顧客の創造」を意識しなくてはならないと言えます。たんに意識するだけでなく、明確にすることが必要不可欠なものとなりました。

以上からすれば、「顧客の創造」をすることは、あらゆる組織の目的であることになります。「顧客の創造」とは、「マネジメントの目的」だと理解すべきでしょう。つまり「顧客の創造」という概念は、もっと大きなものの目的だったということになります。

『現代の経営』で示された画期的な「顧客の創造」というコンセプトは、ドラッカーのマネジメントの発展に伴って、位置づけが変わってきました。1990年代にドラッカーのマネジメントが確立したとも言えます。それに伴って、再定義が必要になったのです。

 

 

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