■ドラッカーの「顧客の創造」について

1 「顧客の創造」とは

ドラッカーの入門書のなかでも、飛び抜けた存在である上田惇生の『100分de名著 ドラッカー マネジメント』はドラッカーに興味のある人にとって、ぜひ読んでみるべき本です。ドラッカーを何冊か読んだ人でも、学ぶところのある本だと思います。

こういう本を読みながら、すれっからしのようなドラッカーファンは、また別のことを見てとるのです。前回、書こうと思いながら、長くなりそうだと思って転換したところがあります。上田の入門書の魅力は、まだごく一部しか語っていません。

上田の本とは独立して書かなくては、書ききれないと思って、あえて書かずに置いたことを、ここに書いておきたいと思います。ドラッカーの「顧客の創造」についてです。上田の入門書では、なぜか、ドラッカーの意図することとは違う解説がついていました。

ドラッカーの「顧客の創造」について、上田の解説にあるような説明をする人が、他にもいました。有名な概念ですから、一度間違ってしまうと、そのまま何となく修正されないことがよくあります。私にも誤解がたくさんあると思いながら、はっとしました。

上田は「顧客の創造」について、[顧客の創造とは、お客に求められているものを創造すること](p.66:100分de名著)と解説しています。しかし実際には、お客が求めていないものまで提供して、お客さんを創ってしまうということまで含めた概念です。

 

2 経済学の基礎理論への影響

ドラッカーは『現代の経営』で顧客の創造について書いています。[市場は、神や自然や経済的な力によって創造されるのではない。企業人によって創造される](上・p.48:選書版)というです。製品・サービスによって「顧客を」創り出すということになります。

▼実際には、事業化の行為が人間の欲求を有効需要に変えたとき、初めて顧客が生まれ、市場が生まれる。
欲求が感じられていないこともある。企業が、広告、セールス活動、新製品の発明によって欲求を生み出したとき、初めて欲求が生まれるケースである。
いずれの場合も、顧客を創造するのは企業の行為である。 『現代の経営』上・p.48:選書版

ここで前提としていることは、企業・ビジネスの行為であるということでした。[事業の目的として有効な定義はただ一つである。それは、顧客を創造することである]ということです。この「顧客の創造」というコンセプトが広く受け入れられました。

「顧客の創造」というコンセプトについて、一番適切な評価をしたのは、もしかしたら金森久雄だったのではないかと思います。金森は『大経済学者に学べ』で、ドラッカーの「顧客の創造」について、おそらく金森だけの独自評価をしました。

金森によるドラッカー理論の一筆書きは[企業が行う事業というのは、マーケティングおよび確信を行うことによって顧客を創造する活動である](p.83)です。金森は、ドラッカーのコンセプトが、経済学の基礎理論に影響を与えるとの評価をしています。

▼ケインズ経済学は、投資や消費といったマクロ的な動きが経済の発展や変動をどのように生み出すかという問題を主に取り扱ったが、実際に投資を行うのはここの企業である。したがって、マクロ経済学は企業を中心としたミクロ経済学によって保管されなければ本当の役には立たない。ドラッカーはケインズやシュムペーターによって築かれたマクロ理論に、「企業」というミクロ的基礎を与えた。 p.85『大経済学者に学べ』

 

3 ドラッカーの「目的」の概念

ドラッカーは『現代の経営』において、ビジネス・企業の目的として「顧客の創造」を[有効な定義はただ一つ]と明確に位置づけています。[企業の目的が顧客の創造であることから、企業には二つの基本的に機能が存在することになる](上・p.48:選書版)。

このように『現代の経営』で明確だった企業・ビジネスの目的が、『マネジメント』ではそう簡単ではなくなります。『マネジメント』における企業・ビジネスの「目的」の概念は「顧客の創造」とは別のものがあるようです。素直に読むと、そう読めます。

『マネジメント』を見ると、第4章「マネジメントの役割」に「目的とミッション」、第6章「企業とは何か」に「企業の目的」、第7章の章題は「目的とミッション」になっています。これら3か所の「目的」の概念は少しずつ言い方が違っているのです。

第4章では[それぞれの組織に特有の目的」(上 p.43)とあり、第6章には[企業の目的の定義は一つしかない。それは顧客の創造である](上 p.73)とあります。第7章の[事業の目的]とは[われわれの事業は何か。何であるべきか](上 p.91)のことです。

これらの概念を少し整理しないと、「ビジネス・企業の目的」とはなんであるのかが分からなくなりかねません。後期のドラッカーを読んでいるならば、この点、『現代の経営』から『マネジメント』を経て、後期のドラッカーで安定したと感じるはずです。

 

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