■ドラッカーの前期・中期・後期と上田惇生『(100分de名著)ドラッカー マネジメント』 その2


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4 目的とミッションを果たす役割

「そもそもの目的は何であるのか」「私たちは何のためにそれをすべきであるのか」を考えるとき、組織の存在意義を考えることになります。こうした考え方が、ドラッカーのエドワード・ジョーンズという証券会社へのアドバイスの基礎にありました。

組織の目的として、「お金を儲けるため」という目的は無効だというのがドラッカーの一貫した考えです。お金儲けではなくて、運用したい客と、資金を必要とする企業のパイプ役を担うことが、この証券会社の組織としての存在意義になります。

このように組織の目的を考えることは、ドラッカーの『マネジメント』でも重視されていることです。ドラッカーはマネジメントの役割を3つあげています。その最初が[自らの組織に特有の目的とミッションを果たす](上・p.43)でした。

上田はここを[自らの組織に特有の使命を果たす](p.43:100分de名著)とわずかに修正しました。「目的とミッション」を「使命」に変えただけです。しかし単に短く言い直しただけではないでしょう。十分わかったうえで、上田は修正したと考えられます。

 

5 上田惇生独自のドラッカー理解

上田は[自らの組織に特有の使命を果たす]の解説で、GEのCEOだったジャック・ウェルチへのアドバイスの例をあげています。ドラッカーは[「あなたの会社のやっている仕事は、すべてワクワクドキドキするものばかりか?」と尋ねたと言います]。

▼ドラッカーは「ワクワクしながら、意気込みをもってやるような仕事でなければ、お客に対して失礼だ。そうでないものは思い切って止めてしまうか、その仕事を熱意をもってやるところとコラボレーションしたほうがいい」とアドバイスしたそうです。 (p.47:100分de名著)

以上に基づいて、上田は[自らの組織に特有の使命を果たす]の意味を示します。[単に本業を真面目にこなせ、という意味だけでなく、喜びを感じながらやる仕事をこそ本業とすべき―という意味が含まれている](p.47)というのが上田流の解釈です。

『マネジメント』を「経営学の本というよりも、人間を感動させ、幸せに導くために書かれた本」という面からとらえると、こういう解釈が成り立つのでしょう。上田は『マネジメント』の内容をきれいに整理した上で、上田独自の体系を示しました。

 

6 ワクワクドキドキの気質

『マネジメント』を読むと、上田の解釈と別のニュアンスを感じるかもしれません。ドラッカーは[自らの組織に特有の目的とミッションを果たす]について、[企業において、それは経済的な成果を上げることである](上・p.43)とあっさり結論をだします。

企業と公的サービス機関の違いについて、[企業は経済的な成果のために存在する。病院、教会、大学、軍においては、経済は制約条件にすぎない]と書いています。企業にとって、[経済的な成果が存在の根拠であり、目的である](p.43)ということです。

こうした経済的な成果を上げるために不可欠なことが、[顧客の創造である](上・p.73)ということになります。こうした点から、[企業の目的は顧客の創造である](上・p.74)と言うことができるでしょう。ここまでが企業に特有の「目的」の話です。

上田はこうした目的の部分を外しました。マネジメントは企業を対象とするだけではないからでしょう。「ミッション=使命」ですから、[自らの組織に特有の使命を果たす]という言い方になります。では、使命についてドラッカーはどう書いているでしょうか。

『マネジメント』7章「目的とミッション」を見てみましょう。ドラッカーはミッションと言いきらずに、「事業の目的とミッション」という言い方をしています。その実質は、「われわれの事業は何か。何であるべきか」を考えるということです(上・p.91)。

これがまさに、エドワード・ジョーンズに対するドラッカーのアドバイスに活きています。ウェルチのものよりもずっとふさわしい事例です。上田には、ドラッカー以上に「人間を感動させ、幸せに導く」ことへの傾斜があるように思えてきます。

ウェルチの事例では、ドラッカーが「ワクワクドキドキ」の話をしたのかもしれません。しかしウェルチはそれを、「世界で一位か二位になるつもりの事業だけ残して、あとはすべて捨てたらどうか」(p.45:100分de名著)と翻案して実施に移したのでしょう。

上田ほどではないにしても、やはりドラッカーには、どこか「ワクワクドキドキ」の傾向があったようです。その結果、「われわれの事業は何か。何であるべきか」が『マネジメント』以降、さらに展開されていったのだと、上田の入門書を読んで気がつきました。

    

 

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