■ドラッカー『経営者に贈る5つの質問』に対するささやかな注釈

1 ドラッカーの全経営思想の真髄

ドラッカーのマネジメントの体系を簡潔に示した本として『経営者に贈る5つの質問』があります。『マネジメント』の後にできた体系を示す本です。ドラッカーが2005年に亡くなった後の2008年に本にまとめられました。いまは第2版になっています。

[「5つの質問」は、1990年代に非営利組織用に開発され、その後、広くあらゆる組織で使われている]と訳者あとがきで上田惇生が記しています。ドラッカーの発言を中心にして、そこに[13人の識者のメッセージを加えたもの](P.154)です。

ドラッカーの発言部分だけなら、全部で50頁にもなりません。ここがまず第一に読むべき中核部分であり、ドラッカー・マネジメントのエッセンスになっています。上田惇生は訳者まえがきで[本書こそ、ドラッカーの全経営思想の真髄である]と記しています。

ドラッカーの発言以外の、他の13人が書いたところにも、参考になる記述はありますが、この部分は、あとで読むべきところでしょう。それぞれの人の考えが示されていて微妙な違いがあるのです。それがかえってノイズになるリスクがあるように思います。

2 5つの質問とは何か

この本の質問は簡単な形式のものですが、これに答えるためには、マネジメントの基本を理解していなくてはなりません。質問に答えようとすることがマネジメントの理解に結びついています。よく考えられた作りです。まず、5つの質問を確認しておきましょう。

質問1「われわれのミッションは何か?」
質問2「われわれの顧客は誰か?」
質問3「顧客にとっての価値は何か?」
質問4「われわれにとっての成果は何か?」
質問5「われわれの計画は何か?」

素直にこの質問を読んで、これに答えていけばよいように、この本は作られています。そうした想定に立っていますが、それだけではもったいない素材です。この本からドラッカーのマネジメント体系を見出すことができるのではないかと思います。

マネジメントの体系を考えるとき、3つの階層から考えることがよいと、私は思っています。体系化されたマネジメントであるならば、3つの階層が意識されているはずです。ドラッカーの5つの質問も階層で見るならば、3つに分けて考えられます。

階層を3つにすることは、マネジメントに限らず、よく見られることです。例えば、刑法ならば、最初に法文(構成要件)に該当するかを確認し、違法性があるかを確認し、責任があるかを確認します。マネジメントでも、3つの段階を踏んで考えることが有効です。

3 3階層に分かれる「5つの質問」

階層を3つに分ける場合、2系統ができます。1つの体系は「目的」「戦略」「戦術」の3階層であり、もう一つは「目的」「目標」「手段」の3階層です。両者は「目的」を共通にして、第2階層を「戦略・目標」、第3階層を「戦術・手段」と括ることが出来ます。

この3階層の観点から、ドラッカーの5つの質問を見てみると、どうなるでしょうか。5つの質問を3つに分けることができます。こうした体系化をドラッカーが行っていたわけではありませんが、しかし3階層を確認してみると、体系の構造が見えてくるのです。

最初の質問1「われわれのミッションは何か?」はミッションですので、目的に該当します。「仕事の目的=ミッション」といってよいでしょう。ドラッカーは序章で[「5つの質問」は、ミッションに焦点を合わせることを必然にする]と記しています。

「目的・ミッション」が決まりました。次に「われわれの顧客は誰か?」「顧客にとっての価値は何か?」「われわれにとっての成果は何か?」の3つが問われることになります。これが目標を導き出す構想の基本であり、「戦略」の基礎になる質問です。

戦略の構想をたてるときの骨組みは、「誰に・何を・どのように」の3項目になります。「顧客が誰であり、何を提供することが顧客の価値になり、どのように提供できたら成果になるか」ということです。この見通しをビジョンと呼ぶことがあります。

戦略となるビジョン・構想が明確になったら、これをどう実現するかが問題になるでしょう。構想を実現するためにどうしたらよいかを考えることが、質問5「われわれの計画は何か?」です。アクション・プランと呼ばれることもあります。これが戦術です。

戦術とは、どんな準備をして、どんなプロセスで、どんな方法・ルールを用いて実践し、それをどう検証していくかということです。構想を実践するためには、各人がどう行動したらよいかが事前にわかっていなくてはなりません。それが計画であり、戦術です。

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