■『星野リゾートの教科書』に学ぶマネジメントの本の読み方 その3


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7 ロジカルな発想

『星野リゾートの教科書』の最終章は「教科書通りに人を鍛える」になっています。マネジメントの教科書にある「教科書的なロジカルな考え方」(P.218)が必要だということです。仕事をしていくときに、[教科書的な発想を重視]して働くことになります。

教科書をきっちり読むことを基本にして、適応するとき必要に応じて「微調整」することが求められるのです。メーカーからサービス業に移っても、マーケティングをやっていたのならば、[前職の経験を生かして](P.219)仕事をすることは可能でしょう。

働く中で、星野社長は[ちょっとした会話の中でも「これはあの理論だ」と説明する](P.220)ということです。こうなると担当者も、[何かわからないことがあると、自分で教科書を取り出して、読み返すようになった]というのも当然だと思えてきます。

つまりは「教科書的な考え方を理解」することが「ロジカルな発想」を身につけることになるという考えなのです。そして教科書的な考え方を理解することは、努力すれば可能なことでしょう。そのため、会社には手作りの研修プログラムが用意されています。

 

8 直感だけでは不安定

本にある事例を見ると、星野社長は理論や論理だけでなく、直感で物事を決めていることがあるのに気づきます。直感は必要なのです。ただし直感だけでは不安定だということでしょう。マネジメントの本を読んで、ロジカルな考えを身につける必要があるのです。

もう少し具体的に見てみましょう。軽井沢高原教会での結婚式は、メルヘン思考の演出が売り物でした。1990年代に入ってもブームが続き、好調を維持していたにもかかわらず、星野社長は限界を感じます。このままではまずいことになるという不安です。

このとき「ブランド・エクイティ」という発想を思い出します。[長期的な視点からブランドの資産価値を高めるべきだ]というアーカーが強調した理論でした。星野社長は、80年代のアメリカ留学中にこの考えを学んで[大きな衝撃を受けていた]のです。

ブランドの価値を決める要素には、①認知、②知覚品質、③連想、④ロイヤルティ、⑤他のブランド資産の5つがあるそうです。星野社長はその中の「知覚品質」に注目しています。なぜ、5つのうちの1つに焦点を当てることができたのでしょうか。

▼「軽井沢高原教会の知覚品質に課題がある」と直感した星野社長は、自分の考えを客観的にたしかめようと、調査会社を使い、軽井沢高原教会で結婚式を挙げたカップルにグループインタビュー形式で意見を聞き、同時にアンケート調査を行った。その結果、軽井沢高原教会は、認知度は高いが、知覚品質に陰りが出つつあることがはっきりした。 p.135

調査データが先にあって、それに基づいて対策を考えたのではありません。はじめに不安を感じています。その不安を解明するのに、頭の中の引き出しから「ブランド・エクイティ」という教科書の理論を選び出し、答えを直感で見出してから調査で確認したのです。

 

9 リーダーの一般教養

マネジメントの教科書を読む必要があるのは、それが共通言語になるからです。[星野リゾートの幹部社員は、異業種から転職してきた人が少なくない][観光業と無縁だった人がずらりと並ぶ]。それでも違和感なく仕事ができるのです。

他業種から転職した人が、[非常にロジカルな経営をしている。社員が熱心に議論しながら試行錯誤をして、仕組みを磨いている]、あるいは[戦略的な考え方がコンサルティング会社の発想に近い。だから何の違和感もなく仕事ができる](p.223)と感じています。

こうした共通性の基本にあるのは、マネジメントの教科書をベースにしているからでしょう。会社の経営には多様性があったほうがいいはずですが、同時に話が通じないと困ります。共通言語になるのは、直感ではなくて、ロジカルな考え方になるのは当然でしょう。

「教科書」ですから基礎ということです。そこからスタートすべきものになります。直感が生きるのは、基礎がしっかりしているからでしょう。その観点からも、古典的なマネジメントの本を基礎教育、一般教養として学ぶ価値があるということになるのです。

教科書を学んだからといって、単一の一律の発想になるわけではありません。リーダーになるためのスタートラインに立つための必要条件というべきでしょう。オーナー社長の能力がその会社の価値に大きく影響を与えるのは、星野リゾートに限りません。

仕事をしながら、その基本的な意味が把握できないのは残念なことです。リーダーになるには、共通言語の理解が不可欠になります。何で古典的なマネジメントの本を読んだほうがいいのかと言えば、それがリーダーの一般教養だからだというべきでしょう。

 

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