■なぜ高い目標が必要なのか:ミッションとビジョンから考える その3


1~3…はこちら
4~6…はこちら

7 「シアーズ物語」

ドラッカーはシアーズについて、何度か語っています。1954年の『現代の経営』4章「シアーズ物語」では事業のマネジメントを成功させた事例として取り上げました。1964年の『創造する経営者』でシアーズの「構想」が成功例とされています。

▼シアーズは、「いかにして農民を小売業の顧客にすることができるか」という問いからスタートした。答えは「そのためには、都市の人間と同じように、信頼できる製品を低価格で手に入れられるという保証が必要である」という簡単なことだった。
しかし当時においては、そのような考えは、きわめて斬新で、革命的でさえあった。
p.264:ドラッカー選書

[信頼できる製品を低価格で手に入れられるという保証]について「シアーズ物語」に示されています。[商品を忠実に紹介する定期刊行のカタログを発行した。「満足保証。委細なく返金」という経営方針を生み出した]のです(p.37 『現代の経営』選書)。

20世紀初頭、当時の農民は低所得者層というべき存在でした。お金持ちを顧客にするのではなくて、農民たちを顧客にして[お金持ちの金と同じように、購買力に転ずることができるはずであると考えていた]のです(p.265:『創造する経営者』選書)。

アメリカの農民、さらには全家庭の責任あるバイヤーになるという使命に基づいて、流通革命を起こして、[いまだ手のつけられていない膨大な潜在購買力]を獲得することを目標に掲げました(p.35:『現代の経営』選書)。そのための構想が必要だったのです。

 

8 「構想」=「ビジョン」

目標達成のためには「どうしたらよいのか」を示す構想が必要です。「構想」とは、『創造する経営者』の選書版における訳語でした。1995年の選書版がでた5年後、『チェンジリーダーの条件』に11章が所収されています。そこでの訳語は「ビジョン」です。

おそらくビジョンという言葉が、日本語になったという判断が訳者の上田惇生にあったのでしょう。「どうしたらよいのかを示す構想」のことが「ビジョン」だというになります。ビジョンがあるから、使命・ミッションが目標になるということです。

【ミッション・使命】+[ビジョン・構想]⇒【目標】という関係が成り立ちます。働く人の中心が知識労働者、プロフェッショナルになってくると、目指すべき焦点が絞りこまれることになります。ビジョンは[一つの狭い領域についてのもの]ということです。

ミッションが成立する条件として、リーダーの信念に基づくものであることがあげられていました。知識労働者、プロフェッショナルに向けられたミッションが、ビジョンと同様[社会や知識のすべての領域にわたるものではなく]なるのは当然のことです。

 

9 「事業戦略」という書名

『非営利組織の経営』でドラッカーがミッション作成に関わったのは、大病院全体のミッションではなくて、「救急治療室」のミッションでした。「何をもって記憶されたいか」の事例となった歯科医の場合も、プロによる自らのミッションだというべきでしょう。

目指すべき領域を狭めると同時に、目指すべき目標を高く掲げることが大切になります。狭い領域であるがゆえに有効な構想・ビジョンが明確になるということです。高い目標が掲げられるのは、ビジョンが素晴らしいからだということになるでしょう。

高い目標を掲げるためには、裏づけになるビジョン・構想が必要です。このビジョンや構想を別な言葉で言うなら、戦略ということになります。ビジョン・構想・戦略の概念は重なり合うものです。素晴らしい戦略が、高い目標を生むということになります。

ドラッカーは『創造する経営者』について、「はじめに」の冒頭で[本書は、今日、事業戦略と呼ばれているものについての世界で最初の本である](選書版)と記しています。[私自身のつけた書名が“事業戦略”だった]ということでした。

『創造する経営者』は戦略を書いた本であり、構想を立てること、ビジョンを実現することを中核にしています。戦略とは本来、「どうしたらよいのか」を示す構想と言えるでしょう。戦略が重要になるにつれて、高い目標が必要になってきたということです。

 

This entry was posted in マネジメント. Bookmark the permalink.