■なぜ高い目標が必要なのか:ミッションとビジョンから考える その2


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4 一人の人間とその支援者

ミッションを掲げることは、いわば「この指とまれ」という呼びかけをすることです。リーダーの信念はこうです、賛同する人は一緒に仕事しましょうというアピールは、知識労働者、プロフェッショナルの人たちに伝わりやすく、相性のよいものでしょう。

第二次大戦後、知識労働者、プロフェッショナルの仕事の割合が増えてきています。組織も変わってきました。マネジメントも変わるでしょう。ドラッカー自身、こうした変化について、1993年「ポスト資本主義社会におけるエグゼクティブ」で語っています。

▼言葉についていうならば、私は「マネジャー」という言葉もあまり使いたくない。おのずと「部下」を思い起こさせるからだ。私としては「エグゼクティブ」という言葉を多く使いたい。そのほうが、人間に対する支配ではなく、責任を意味しているからだ。 21~22頁:『未来への決断』

[伝統的な上司と部下の関係」から[一人の人間と、その支援者の関係]になるべきだと指摘しています。[相互理解と責任の組合せ]になるということです。知識労働者、プロフェッショナル中心の組織では、ミッションが「この指とまれ」の中核になります。

 

5 高い目標を立てる意義

知識労働者、プロフェッショナル中心の組織では、ミッションを掲げ、目標を掲げて仕事をすることになります。そのとき、高い目標が必要であり、高い要求水準に見合う責任と権限を与えることが必要です。そうでないと成果が上がらなくなります。

ドラッカーは「会社はNPOに学ぶ」で、知識労働者の生産性を上げるために不可欠な条件を、反対側から記しています。[「会社の仕事はやりがいが十分でなく、成果も責任も十分でない。使命も見えない。あるのは利益の追求だけだからだ」との答え]です。

もし高い目標が達成できるのなら、やりがいを感じるはずです。リーダーは、高い目標を掲げ、その構想を示す責任があります。目標に関して、いつも思い出すのはエディー・ジョーンズの『ハードワーク』です。高い目標を立てることの意義を語っています。

▼目標は、「そんなことができる訳がない」と思えるほど、大きなものを掲げるべきです。
手の届きやすい目標は、すでにある自分の力から、予想したものでしょう。それでは「眠った力」を呼び覚ますことは、出来ません。いままでに感じたことのない熱意を覚えたり、100パーセントの努力を傾けたりすることはないでしょう。 p.18:2016年版

強いリーダーがいて目標が明確であれば、その道筋も見えてきます。こうすれば目標は達成できると、リーダーが言えば、信じることができるでしょう。その信じさせる力はミッションから来るはずです。そしてミッションを目標にするには構想が必要になります。

 

6 目標を生みだすための構想

今までにないことをやろうとする場合、高い目標を掲げることが必要です。知識労働者とかプロフェッショナルと呼ばれる人たちにとって、挑戦するに値する明確な目標があって、そこに到達するための構想が示されたならば、やる気満々になることでしょう。

▼構想は、企業家的なものでなければならない。すなわち、事業上の行為と行動を通じて実現すべき構想でなければならない。それは、富を生む機会や能力についての構想でなければならない。 p.262:『創造する経営者』ドラッカー選書 1995年

1964年に出された『創造する経営者』でドラッカーは「企業家的」という言葉を使って、[今日とは違う事業を築くこと]の必要性を示しています。このときの構想は[大きな構想である必要はない]のです。逆に焦点を絞る必要があるといえます。

だから構想は[社会改革家や、革命家や、哲学者の問いからは出てこない]のです。企業家的という以上、[社会や知識のすべての領域にわたるものではなく、一つの狭い領域についてのものであるという事実にこそ、活力の源がある](p.263)と言えます。

プロフェッショナルたちに構想を示すとき、ある狭い領域のものでなくては明確なイメージがわきません。『ハードワーク』のジョーンズが示した目標も構想も、ラグビーという自分の領域のことであるからこそ、明確で強いイメージがわいたはずです。

ドラッカーは言います。[事業上の構想をもつ者」は[自らの事業の焦点に関してほぼ正しくありさえすれば]十分だということです。経済や社会全般について問われてはいません。[成功に必要なものは、ある特定の一つの小さな発展だけである]のです。

知識労働者とかプロフェッショナルの生産性を上げるためには、焦点を絞った領域で、高い目標を達成することが必要になります。ミッションから目標が生まれ、その目標を生むには、「こうすれば目標が達成できる」という構想が必要になるということです。

 

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