■リーダーの練習:自分のマネジメント その3


1~3…はこちら
4~6…はこちら

7 「仮説⇒実行⇒検証」が不可欠

リーダーのなかには、ドラッカーの本を読まなくても内容はわかると言う人がいらっしゃいました。本の内容を教えてくれる人がいて、その話を聞けば、それはこういうことだと言えるのです。自分の経験からすると、こうでないとおかしいという考えでした。

もし自分のいうことが違うなら、それはドラッカーのいうことが間違っているんだ、そうじゃないと言うなら、それは解釈が違うのだとおっしゃるのです。ずいぶんな自信ですが、自分が身にしみて感じる基本部分では、間違いようがないというお考えでした。

ここまでの自信はなくても、自分の経験と合わせてマネジメントの本を読まない限り、振り回されるだけでしょう。リーダーの練習なしに、マネジメントの本を評価するのは難しいと思います。マネジメントは仮説にすぎません。実行してはじめて検証できます。

ほぼすべての人が様々な場面で、何度となく上手くいったり失敗したりの経験をしているはずです。ビジネスならば、検証が必須になります。ドラッカーの場合、フィードバック分析をするということでしょう。検証の質が問われることになります。

検証をするときに一番大切なのは、事前に仮説を立てることでしょう。単純モデルでいえば、「こうすればこうなるはずだから、こうしよう」というものです。これがないと十分な検証ができません。「仮説⇒実行⇒検証」という流れが必要だということです。

仮説が大切なのに、仮説を無視していきなり実践に走る傾向があります。モデルを立てる練習をしておけば、仮説など、そう時間をかけずに作れるはずなのです。仮説をつくらずに、実戦あるのみという場合、たいていダメな現場主義になります。

 

8 『経営者の条件』の新たな項目

『経営者の条件』もドラッカーによる仮説です。ドラッカー本人にとっては、あたりまえのことかもしれませんが、万人のものではないでしょう。すべてが使えると考える必要はありません。自分に不可欠な項目を見出して、そこから学ぶしかないと思います。

2006年刊行の名著集・エターナル版の『経営者の条件』には、序章として「成果をあげるには」(What Makes an Effective Executive)が加わっています。2004年に書かれたものですから、2000年刊行の『プロフェッショナルの条件』にも所収されていません。

『経営者の条件』を読むのなら、序章にこの論文をいれたエターナル版がお勧めです。ただし、この序章を読むのは最後にすべきでしょう。もともと単独の論文ですし、十数ページの内容ですから、1章以下の内容がわかっているという前提で書かれています。

この序章には、リーダーの練習に必要な項目が並んでいます。その点で、1章以下とかなりの違う内容です。[成果をあげるには、近頃の意味でのリーダーである必要はない]と書き出しています。いわゆるリーダータイプである必要はないということです。

リーダーとして成功するにはどうしたらいいのか。「八つの習慣」が必要だというのが、この論文の内容です。『経営者の条件』に加わった「成果の評価」の項目に続く、7つ目の項目といえます。リーダーとして成功するための条件は、以下です。

▼八つの習慣
(1)なされるべきことを考える
(2)組織のことを考える
(3)アクションプランをつくる
(4)意思決定を行う
(5)コミュニケーションを行う
(6)機会に焦点を合わせる
(7)会議の生産性を上げる
(8)「私は」でなく「われわれは」を考える

 

9 リーダーの練習:2つの目的

リーダーの練習をしようとする人から、この分野で一番読むべきものは何かと聞かれたら、まず『プロフェッショナルの条件』のパート3をお勧めしたいと思います。もっと直接的で一番エッセンスが詰まったものなら、この序章をあげるでしょう。

まず最初に、[なされるべきことを考えることである。何をしたいかではない](p.3)。[なされるべきことはほとんど常に複数である。しかし成果をあげるには手を広げ過ぎてはならない]、1つあるいは2つまでにすべきだと提案しています。

ジャック・ウェルチは次の5年間に集中すべきものとして、[GEにとっての優先課題を二つか三つ決めた後、自らが得意とするものはそれらのうちのどれかを考えた。そしてその課題に集中した。残ったものは、トップマネジメントの誰かに任せた]とのこと。

第二に[組織としての会社にとってよいことでない限り、他のいかなるステークホルダーにとってもよいこととはなりえない]と考えること。第三にアクションプランをつくること。[行動の前には計画しなければならない]という原則が示されています。

▼アクションプランとは意図であって、絶対の約束ではない。拘束ではない。一つひとつの成功が新しい機会をもたらし、一つひとつの失敗が新しい機会をもたらすがゆえに、頻繁に修正していくべきものである。 (p.6)

アクションプランを行動に移すために、(4)意思決定を行う、(5)コミュニケーションを行う、(6)機会に焦点を合わせる、(7)会議の生産性を上げる…という習慣が必要です。(6)では『イノベーションと企業家精神』の7つの機会が示されています。

最後の(7)は[「われわれは」と考え、「われわれは」ということ]を習慣にすること。同時に、リーダーなら[最終責任は自らにあることを知らなければならない。最終責任とは、誰とも分担できず、誰にも委譲できないもの]との覚悟が必要だということです。

これらは特別な内容ではないはずです。しかし簡単には実行できません。リーダーの練習は大変です。その目的は何かといえば、組織のためでしょう。しかしもう一つあります。自分のマネジメントをするためには、リーダーの練習が不可欠だということです。

 

カテゴリー: マネジメント パーマリンク