■リーダーの練習:自分のマネジメント その2


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4 『経営者の条件』への自信と愛着

ドラッカーの『経営者の条件』について、1995年のドラッカー選書版の「訳者あとがき」に上田惇生が裏話を記しています。上田は、ドラッカーの著作を若い人に読んでもらたいと思って、ドラッカーに提案したようです。そのときのやりとりが書かれています。

▼まだ果たせないでいるが、ドラッカーとの間では、とくにそのようなところを選んで一冊の本にまとめる約束になっている。そのとき彼が、たくさん使ってほしいと名指ししてきた本が、この『経営者の条件』と『現代の経営』だった。 p.242 1995年選書版

後に『プロフェッショナルの条件』(2000年出版)になった本には、『経営者の条件』のすべての章が入っています。全訳ではなくて、そのエッセンス部分のみを訳したものです。これは『エッセンシャル版 経営者の条件』であると上田惇生本人も言っていました。

▼今度訳者が新訳を頼まれたことを伝えたときも、大喜びしてくれた。プラトンからマキャベリに至るヨーロッパの賢人たちが、その支配者たちに教えてきたように、現代の働く人たちのために書いたという『経営者の条件』には、よほどの自信と愛着、使命感があるのであろう。 p.242 1995年選書版

働くリーダーのための本が『経営者の条件』だということでしょう。その後、この本は版を重ねて、ドラッカーの著作のなかでも一番読まれた本だというお話をお聞きしました。日本の場合、『プロフェッショナルの条件』で読んでいる人もかなりいるはずです。

 

5 「成果の評価」を追加

ドラッカーが愛着を持っていた本だけに、その後も、この本を発展させる気持ちがあったようです。1970年代に出演した幻の研修カセットテープを翻訳した『われわれはいかに働き どう生きるべきか』(2017年刊)でも、『経営者の条件』に言及しています。

▼成果を上げるには、いくつかの習慣的な能力を身につけなければなりません。
第一が、時間をマネジメントすることです。
第二が、貢献に焦点を合わせることです。
第三が、強みを築くことです。
第四が、重要なことに集中することです。
第五が、的確に意思決定を行うことです。
私はこれらのことを『経営者の条件』で指摘しました。

『経営者の条件』は7章と終章からなっています。そのうち1章の「成果をあげる能力は習得できる」は総論、終章はいわばまとめですから、本文は6つの章からなります。そのうち第6章と第7章が「的確に意思決定を行うこと」について書かれた部分です。

これらの5つの[習慣的な能力]について、[それから10年以上が経ち、少し考えが変わりました]と語っています。[重要性のウエイトが若干変わった]だけでなくて、[項目も一つ増えて、五つから六つになりました]ということです。

▼第六が、成果を評価することです。自ら目標を立て、自らを評価することです。
これらが、成果を上げるための鍵となる六つの習慣的な能力です。

この第六に該当する項目は、その後、1999年刊行の『明日を支配するもの』6章に示されました。この章はさらなる発展形なのかもしれません。「フィードバック分析」の方法が示されています。そのエッセンスは『プロフェッショナルの条件』に所収されました。

 

6 リーダーの練習に不可欠なフィードバック分析

リーダーの練習をした人なら、たぶん時間をマネジメントすることと、成果を評価することの重要性を知るはずです。小さな会であっても、あれやこれやと時間がかかります。それなのに本業の仕事があるからと、なかなかやる気になりません。

小さな組織の運営でも時間がとられるのは確かですが、ここで特に問題になるのは着手と効率です。なかなか着手しないで無駄に時間を使うことがよくありました。もっと効率的に時間を使うべきだったと感じるのは、いつものこととも言えます。

成果を評価することが大切だと思います。大げさな評価でなくても、自分なりに充実した時間だったと、ささやかでも満足できる程度の成果を確認しておくべきでしょう。そう感じられたなら、知らないうちに相当の時間を投入してもストレスになりません。

リーダーの練習をする場合に、第六の「成果を評価するフィードバック分析」は不可欠な項目だろうと思います。リーダーなら、何をするにしても時間と成果をチェックするはずです。そして「重要なことに集中すること」にもなります。

『プロフェッショナルの条件』の中核となるパート3に、第6の「成果の評価」、第1の「時間のマネジメント」、第4の「重要事項への集中」が並んでいるのを見ると、上田先生すごいなあと感じます。そして、ああリーダーの練習だと思うのです。

 

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