■ミッションとはどういうものか

1 企業理念とミッション

学生が学校の先生から、就職のときに企業理念を見るとよいと言われたそうです。就職に関する講義でのことだということでした。それで、いくつかの会社の企業理念を見たそうです。読んでもよくわからないと、学生が言っていました。少し前のことです。

明確な内容をもつ企業理念を掲げている会社はごく少数ですから、学生がわからないと言うのも無理はありません。実際、先生もよくわかっていないようだったとのこと。企業理念が大切だというフレーズをどこかで聞いて、あまり考えずに話したのでしょう。

ビジネス人でも自社の企業理念を知らない人はたくさんいます。研修で確認してみると、ご存じない人が多いのです。HPに企業理念が掲げてあっても、会社でとくに聞いたことがないということは、めずらしくありません。

企業理念とミッションでは少し違いがあるはずです。ミッションという言葉はよく使われますし、「使命」という日本語もありますから、何となくわかる気がします。しかし、どんな概念か、簡単には答えられません。ドラッカーの言葉で確認しておきましょう。

▼使命の表現は、それに基づいて現実に動けるものでなければならない。そうでなければ、単なるよき意図の表明に終わってしまう。使命の表現は、その機関が現実に何をしようとしているのかに焦点を絞ったものでなければならず、その組織に関わる一人一人が、目標を達成するために自分が貢献すべきことはこれだ、といえるようなものでなければならない。 p.7 『非営利組織の経営』1991年版

 

2 「シアーズ物語」

ミッションの役割として、目標を導き出すという点があげられます。これは簡単ではないでしょう。企業がミッションを掲げていないのは当然かもしれません。よほど考えないと、シンプルな言葉で目標を導き出せるミッションなど作れないでしょう。

ドラッカーのようにマネジメントの基礎を確立した人でも、ミッションについて書いているのは晩年になってからのことです。『非営利組織の経営』は1990年に出ています。『現代の経営』でも『マネジメント』でも、ミッションについて明確に語っていません。

もしビジネスの目的を利益の追求とするなら、非営利組織の場合、企業経営とは別の範疇になります。では非営利組織だけに、ミッションが必要なのでしょうか。そうではありません。ドラッカーがミッションの成功例としてあげたものは営利企業のものでした。

▼今世紀の初め倒産の危機に瀕し、悪戦苦闘していた通信販売専門の会社シアーズを、10年とたたないうちに世界的な小売業へと変身させたのは、まさにその定めた使命によってであった。同社は、アメリカの農民にとって、さらにはアメリカの全家庭にとって、十分な情報をもつ責任あるバイヤーとなることを自らの使命と定めたのである。 p.6

シアーズについては、1954年の『現代の経営』でも語られています。ビジネスの目的を論じた5章の「事業とは何か」の前にある4章が「シアーズ物語」です。ここにシアーズを近代的な企業に育てたジュリアス・ローゼンウォルドのことが書かれています。

▼彼は市場を分析した。メーカーを組織的に育成した。商品を忠実に紹介する定期刊行のカタログを発行した。「満足保証。委細なく返金」という経営方針を生み出した。生産的な人間組織をつくりあげた。他企業に先んじて、マネジメントに最大限の権限を与えるとともに、業績に対する全責任を課した。 『現代の経営』選書版 p.37

ここには経営方針が記されていますが、ミッションとは違うもののようです。『現代の経営』で、[自らの事業はなにか、市場はどこにあるか、どのようなイノベーションが必要か](p.43)と問うなかに、ミッション(使命)は位置づけられていないようなのです。

 

3 ミッションづくりに必要な三つのもの

マネジメントにおけるミッションという概念は、わりあい新しいものかもしれません。まずドラッカーの考えるミッションについて、『非営利組織の経営』での説明を見ておきましょう。ドラッカーはミッションの前提から記しています。

▼組織の強みと成果に目を向けなければならない。うまくやっていることをもっと上手にやることが必要である。ただし、それが適切であることが条件である。組織が何でもやれると思い込むことは正しくない。組織の価値観に外れたことをやろうとしても、拙劣なことしかできない。 p.10 『非営利組織の経営』1991年版

まず、外部に目を向けてニーズを探り、自分たちの限られた資源のもとで、他に抜きん出た分野はどこであるかを考えること。[人は、何事かをなし、それをうまくやることによって、基準を設定する。成果によって、新しい次元を切り拓く]のです。
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次に[何を心底信じているか]が問題になります。[使命とは、個人を離れた一般的なものではありえない。固く信ずることなしに物事がうまくいったためしはない]ということ。そのためミッションを定めることが、リーダーのなすべき第一のことになります。

▼三つのものが必要である。機会、能力、そして信念である。使命の表現は、必ずこの三つを示していなければならない。 p.11

ミッションのもとに人が集まることになるでしょう。リーダーとなる個人あるいはその人たちが、環境をよく見て、自分たちが抜きん出ていける分野を選び出し、これならやる価値があるという信念が持てるなら、ミッションを作っていけるといえそうです。

 

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