■ビジネスの目的とミッション:ドラッカーの場合 その2


1~3…はこちら

4 目的論的世界観

ドラッカーが目的について語っているのは、先にあげた「未知なるものをいかに体系化するか」(『テクノロジストの条件』)においてです。『現代の経営』を書いた1954年から3年後の1957年に書かれています。この間に何が起こったのでしょうか。

ドラッカーは「未知なるものをいかに体系化するか」の中で、「目的論的世界観」について語っています。デカルト的なモダンの世界から、新しい時代のポストモダンの世界へと変わったということです。目的を基礎にする世界観が成立することになります。

▼今日ではあらゆる体系が目的律を核とする。ポストモダンにおける諸体系のコンセプトは、全体を構成する要素(かつての部分)は全体の目的に従って配置されるとする。ポストモダンにおける秩序とは、全体の目的に沿った配置のことである。 pp..7-8

解りにくい文章です。モダンの世界で「全体と部分」から構成されていたものが、ポストモダンの世界では「全体と要素」から構成されることになります。部分ではなくて、全体に対する要素だということです。この少し前の文章も見ておきましょう。

▼デカルトは一歩を進め、全体は部分によって規定され、全体は部分を知ることによってのみ知りうるとした。全体の動きは部分の動きによって規定されるとした。さらには、全体は部分の総計、構造、関係を離れて存在しえないとした。 p.6

こうしたデカルトの世界が、[ふたたび目的によって支配されるもの、すなわちかつてデカルトが捨てた世界観へと戻った](p.8)とあります。目的が全体を支配する世界になったのです。部分から全体を見る世界ではなくなったということになります。

 

5 「宇宙の目的」と「宇宙のなかの目的」

ドラッカーのいうことはわかりにくいのです。文中でも[その内容を理解しきってはいない](p.9)と書いています。しかし大切なことにちがいないと感じるはずです。実際、その後のドラッカーの記述の変遷からみると、決定的な内容でした。

ドラッカーの考えのポイントは、(1)世界の秩序を作っているのは、全体を構成するコンセプトであること、(2)世界の秩序とは[目的に沿った配置]になっていること…です。ただ、ここでの「目的」という概念に注意が必要だと記しています。

▼ここにいう目的とは、中世やルネサンス期のそれとは異なる。かつての目的は、物質的世界、社会的世界、心理的世界、哲学的世界の外部にある絶対的存在だった。これに対しポストモダンにおける目的は形態そのものに内在する。それは形而上のものではなく形而下のものである。宇宙の目的ではなく宇宙のなかの目的である。 p.8

ドラッカーは目的を「宇宙の目的」と「宇宙のなかの目的」の2つに分けます。「形而上」とは形をもたないもの、「形而下」とは形のある形態ですから、新しいポストモダンにおける目的は「形態に内在する目的=宇宙のなかの目的」です。

以上が「未知なるものをいかに体系化するか」で目的について語っていることです。これらをまとめると、新しい世界では、内なる秩序に基づいて要素が配列されていて、その配列を決めているのは目的であるということになります。

 

6 「ビジネスの目的」と「ビジネスのなかの目的」

ずいぶん回り道をした感じがしますが、やっと「事業の目的(business purpose)」に話が戻ります。『現代の経営』でドラッカーが「事業の目的」を問うのはなぜであるのか、まずそこを確認してから話をすすめましょう。

▼事業とは何かを理解するためには、事業の目的から考える必要がある。事業の目的は企業の外にある。企業が社会の一機関である以上、事業の目的は社会に求めなければならない。
そして、事業の目的として有効な定義はただ一つである。それは、顧客を創造することである。 p.48 ドラッカー選書

ここでの「目的」とはどんな特徴をもつものでしょうか。(1)目的が企業の外にあり、(2)目的となるのはただ一つのものです。「宇宙のなかの目的」とは違います。それでは「宇宙の目的」と言ってよいでしょうか。

「宇宙の目的」というのは[物質的世界、社会的世界、心理的世界、哲学的世界の外部にある絶対的存在]です。ドラッカーのいう「事業の目的」は、企業の外に存在して、唯一絶対的な存在ですから、「宇宙の目的」にあたるものでしょう。

「未知なるものをいかに体系化するか」で使われる「宇宙の目的」と「宇宙のなかの目的」という言葉を、「ビジネスの目的」と「ビジネスのなかの目的」に言い換えた場合、「ビジネスの目的」は「顧客の創造」であると言ってよさそうです。

 

[

カテゴリー: マネジメント パーマリンク