■業務の分析と統合:プロセス思考の問題点

 

1 業務とプロセスの話

先日IT技術に関わる方々のお話を聞いてきました。こういうセミナーは久しぶりです。技術的な詳細やトレンドについてはわかりませんが、何人かの方が業務の把握が大切だとお話をされていたのが印象的でした。その分野なら、少しは何か言えそうです。

業務システムにとって、業務は切り離せない基盤になります。業務を把握することが重要なのは当然ですし、業務に合わせて業務システムを構築する必要があるという点に異論はないでしょう。では、どうやって業務を把握するのでしょうか。ここが問題です。

何だかひどく古めかしい話を聞かされた感じがしました。業務の把握をするときに、プロセスを見ることが必要なのは、その通りでしょう。しかし、プロセスだけで業務が把握できるかのような話に聞こえて違和感がありました。その意味で相変わらずのお話です。

 

2 古くからあるプロセス思考

ビジネスのプロセスを見直す発想は、1990年代に示されたBPRの手法よりずっと前からあります。1954年刊の『現代の経営』で、ドラッカーは外科医の仕事をモデルにして3つの原理を示しました。テーラーの科学的管理法に2つの原理を加えています。

科学的管理法というのは作業を標準化して、それにふさわしい組織を作るというものです。ドラッカーは[科学的管理法の分析を適用しうる範囲は、一般に考えられているよりもはるかに広い]と書いています。しかしこれだけでは不十分です。

第二の原理は[仕事の要素動作を改善すること]。[仕事の改善のための体系的な努力は、部分の改善のための努力として行われるとき、大きな効果を上げる]と言います。第三の原理は[要素動作を体系的に、かつ仕事の論理に従って配列すること]です。

作業を標準化し、構成する要素を見直し、全体を再配列するのですから、BPRの原型とも言えるものです。しかしこれだけでは不十分でしょう。[問題は仕事を要素動作に分解することではなく、それらの要素動作を一つの全体に統合することにある]のです。

 

3 統合に必要なルール

ドラッカーは統合の原理を、前述の3原理とは別に、3つあげています。第1は仕事をステップごとに独立させること、第2は仕事のスピードとリズムを仕事をする者の働き方に合わせること、第3は仕事に技能や判断を要する要素を含ませること…の3つです。

この3原理に反対する必要はありませんが、しかし不十分です。たしかに分解の方法はプロセスで考えればよいでしょう。一方、統合の原理を一言で言うと何になるのでしょうか。このことが明確でないために、業務の把握をプロセス中心の発想で行いがちです。

業務を全体統合するのに何が必要なのか。一言で言えば、ルールです。業務を把握するときに、分析と統合が必要になります。分析するためにはプロセスに分解する、統合するためにはルールを作るということです。プロセス思考だけでは片手落ちになります。

どうルールを作っていったのかが語られないままに、プロセスの話だけで終わってしまうのは物足りません。それでも業務システムの構築には問題がないのでしょう。業務システムを作る場合、プロセスが確立しさえすればシステム構築ができるはずです。

プロセス思考というのは、システム構築思考というべきものでしょう。業務システムなき業務は、もはや考えられなくなりました。システムの構築においても、業務の把握に「分析と統合」の発想が必須になるはずです。大きな欠落があるように感じました。

 

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