■『アイデアのつくり方』と社会科学:大塚久雄「創造の過程と成果」

 

1 社会科学の勉強

ヤングは『アイデアのつくり方』で、アイデアを生みだす人のタイプを「新しい組合せの可能性につねに夢中になっている人」だと言いました。新しい組合せを生み出すには「事物の関連性を見つけ出す才能」が必要です。この才能を開拓しなくてはなりません。

ヤングは[この習性を修練するもっともよい方法の一つは社会科学の勉強をやることだ]と書いています。社会科学の勉強をすることが、なぜ物事の関連性を見つけ出す才能を鍛えることになるのでしょうか。この点について、ヤングは説明していません。

そのヒントになりそうな文章が、社会科学者だった大塚久雄の「創造の過程と成果」(1970年の講演録『生活の貧しさと心の貧しさ』所収)です。この講演で大塚は学問の創造過程を語っています。多くの類似性と若干の相違があって、興味深い内容です。

 

2 ヤングの5段階の方法との対比

大塚は着想・思いつきなどの[閃きが訪れてくるには][研究上の事柄についてすでにかなりの程度精通し習熟していること]が前提だとしています。ヤングの『アイデアのつくり方』で言えば、第一段階の資料集めができていることが前提になっているのです。

ところがその過程で、[その事実は確かに実証的に間違いないと思われるにもかかわらず、それを既知の学問のシステムで捉えようとしても、どうしてもうまくいかない]という場面に遭遇します。学問の場合、これがヤングの第二段階に当たるでしょう。

▼先人の残した成果のもっともすぐれた、いわば精髄を継承しようとして、さしあたり彼らの実証と理論に基づいて研究を推し進めていく。ところが、どこかで論理的にか実証的にかどうしてもついて行けないところが出てくる。そうしたせっぱ詰まったところで、おのずから生まれてくる疑いこそが真に学問の上で生産的な疑いでしょう。(p.230「創造の過程と成果」)

こうした疑いが出てきて壁にぶち当たります。その壁を突破するために[必死の模索をやることになる]。これがヤングの第三段階に当たります。ヤングが使った消化という言い方と較べると必死です。大塚は「創造する者の味わう産みの苦しみ」と語っています。

そして[知的にもがき苦しむ。そのただ中で着想の閃きに巡り会う]のです。この[新しい着想が得られる過程]がヤングの第四段階に当たります。さらに、この新しい着想を[論理的に展開していく過程]が必要です。これがヤングの言う第五段階になります。

 

3 合理的な論理的構成

既知の学問で説明できない事実に遭遇したとき、この説明できない事物を[論理的に矛盾がないように整理して、合理的な構成にまで作り上げていく]ことが学問における創造です。矛盾した事実を説明するために、新しい構成が作られることになります。

たとえば大塚は、イギリスで15世紀に資本主義の発達が始まるとき、[それまで栄えてきた商人や高利貸したちが一斉に没落してしまうという事実]を見つけます。近代以前からの商業が発達して、近代の資本主義経済が生まれてくるという考えと矛盾するのです。

これを解決するために新しい学説を立てました。これがいわばアイデアです。それは[合理的な論理的構成をあたえられて、ある一定の知識水準さえあれば、十分に理解することができるもの]です。こうした学説を生み出すときに役立ったのは何でしょうか。

▼川喜田さんや法社会学で有名な川島武宜さんなどと仲良くして頂いたのですが、その間に私の受けた恩恵は計り知れないほどだと思います。たとえば、川喜田さんの「感染」の理論は私の経済史における「過渡期」の理論に大きく影を落としていますし、また川島さんの論理の進め方に学ばなければ、私はウェーバーの形式合理性の概念をとうていうまく理解しえなかったと思います。 (p.254「創造の過程と成果」)

ヤングが社会科学の勉強をするようにと言ったのは、社会科学が、常識では関連性がないように見えるものに新たな関連性を見出して、それを理解できるように構成した学問だからでしょう。大塚も他の学者から学びました。われわれも学ぶ価値があると思います。

 

⇒関連のブログ 『アイデアのつくり方』:ヤングが最後に強調したこと

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