■読解力の訓練について:新井紀子『AIに負けない子どもを育てる』

 

1 読解力を伸ばす標準的な手法

『AIvs.教科書が読めない子どもたち』を書いた新井紀子の新著『AIに負けない子どもを育てる』を手に取りました。題名にある通り、読解力を養成するお話が書かれているようです。残念ながら、期待はずれでした。飛ばし読みのままになるかもしれません。

前著では、(1)AIでできることには大きな限界があり、読解はかなり苦手であること、(2)子供の読解力が落ちていて、教科書が読めないレベルの子がかなりいること…が指摘されていました。AIが苦手とする読解は、人間も苦手だということになります。

具体的な問題で指摘されると、深刻さがわかってくるでしょう。先日ふれたアミラーゼ問題は誤答率の高い問題であるため、現役のビジネス人でも不正解の人がかなりいます。ある種の集団では、半分以上の人が間違うので、先日その事例を取り上げてみました。

読解力を伸ばす標準的な手法が、新著で示されているのではないかと期待したのですが、専門外のことをおやりになっているという感じがしました。基本となる訓練法は、大人でも子供でも同じだと私は考えています。アプローチがかなり違うと感じました。

 

2 4割強の中学生が読解力不足

誤答率の高いアミラーゼ問題は読解のレベルチェックに役立ちます。いい文章ではありませんが、文章のルールが理解できている人ならば、特に難しい問題ではありません。この問題を難なく解ける人の場合、もっとわかりやすい表現に変更する力もあります。

前著の新井の本では、教科書が読めるかどうかの判定になりそうな問題も用意されていました。このレベルの文章が読めないと、一人で教科書を読んで理解するのはそうとう苦労するだろう、あるいはほとんど理解するのは無理ではないか…と感じさせる問題です。

・幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた。
・1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた。

以上の2文は同じ意味でしょうか。

問題文は文章としておかしくはありませんし、理解に苦労するほどの文章ではないはずです。しかし新井たちの調査で、中学生の正答率が57%だったとのこと。4割以上が読めませんでした。漠然と感じていたことが具体的な数字で示されると驚くことになります。

 

3 リーダー向けの読解力の訓練

新井の新著の最後で、大人でも読解力が改善した事例が示されていました。テストの問題をチェックする人がそれを半年間継続するうちに、知らずに読解力が向上していたということです。よい事例ですから、こちらをもっと詰めればよかったのにと思います。

失語症の人たちを身近で見ていると、言語野に障碍が起っても、その後かなり読み書き能力が回復するケースがあります。大人になってからの訓練で効果があると期待するのは自然なことです。ただ失語症の場合でも、訓練法が確立されたとはとうてい言えません。

言葉のルールをきちんと理解して、何度も訓練するうちに、特別に意識しなくても正確に読解できるようになっていくというのが、読解力訓練の基本だろうと思います。現行の日本語の文法は読解に役立ちませんので、言葉のルールから作り直す必要があります。

仕事のできるビジネス人がたった300ページの本を見て、厚さに圧倒されると言うのを聞くのは残念です。世界で戦うのなら、こんなの楽勝でないとまずいでしょう…と言えば、そうですねとお答えになりますが、一定以上の訓練が必要になるのも確かでしょう。

読解力の訓練に関するニーズは以前からあったようですが、しかしリーダー向けの研修やセミナーなどは簡単に成り立たなかったとのことです。ここ数年で、状況が変わってきたとお聞きしました。危機感に変わったのです。私も講座のために訓練法を作っています。

 

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