■業務マニュアルがないままの組織:現場力のあるケース

 

1 業務マニュアルを必要としない組織

業務マニュアルが重要だからと言って、必要を感じない組織に業務マニュアルを作ってくださいと言っても意味がありません。業務マニュアルなどなくても困らないと感じる人はたくさんいるはずです。実際、業務マニュアルのない会社はいくつもあります。

以前、研修でご縁のあった業界トップ水準の企業でも、業務マニュアルがありませんでした。野武士集団を抱える品質重視が評判の会社でしたから、いい仕事をしていたことは間違いないでしょう。ところがあるとき業務マニュアルのないことが不安視されました。

それまで業務マニュアルがなくても問題がなかったのは、簡単な理由からでした。この会社の各現場には、自分たちで臨機応変の判断ができる高いスキルの持ち主がいたのです。私が研修をしたときにも、全国からいらした方々は自信にあふれていました。

こういう組織の場合、業務マニュアルなど必要ないのかもしれない…と、そんな気さえしました。従来、そう思う人がほとんどだったので、マニュアルなしに仕事をしてきたのです。ところがビジネス環境が変わってきたため、業務の見直しが始まりました。

 

2 成功しなかった業務改革

どんな業界でも、あるときから急速な変化がやってきます。ハイテク化、デジタル化、IT化…など様々な面で、ビジネスが変化していきます。大きな変化に対して、従来からの対応に不安を感じる人が、これは危ないという判断になったということです。

業務改革のコンサルタントに相談しながら、どういうビジネスを展開すべきかということについて、社内で議論が始まり、いくつかの改革案が出てきたとのこと。ところが数年間試みたけれども、どうも効果がなかった、それで私に声がかかったとお聞きしました。

能力のある人たちが、ビジネスを自ら変更していこうと取り組んだのに、うまくいかなかったのは不思議な気もします。社内で業務の変更に抵抗があったわけではありません。それにもかかわらず業務改革は失敗しました。しかし当然の結果かもしれません。

 

3 挫折した業務マニュアルの作成

ビジネスを記述しないままでの業務改革だったのです。担当者から、議論の合意項目を確認した程度で、実質的な成果はなかった、各自の理解に基づいて改革案の趣旨が現場に持ち込まれただけで終わってしまったというニュアンスの話がありました。

議論して理解したら実践できると思っていたとのこと。ビジネスのルールや手法を記述する意識がなかったとおっしゃっていました。結果的には、改革案は意図せぬままに骨抜きになり、各現場でなされていた工夫も共有されないままに終わったということです。

ビジネスというのは、書かなくてはダメだと痛感したと担当の方はおっしゃっていました。業務を記述していくための研修が始まり、その後の計画も進めて行きますとのことでしたが、翌年になってもマニュアル作成まで進まず、計画は放置されてしまいました。

現場に力のある組織では、現場に任せておけば何とかなるもののようです。業務の記述のために時間を取る気にならなかったのかもしれません。仕事のレベルは相変わらず高いままなのでしょう。トップと大差がついてしまったとはいえ、いまでもナンバー2です。

こうした問題は、トップの決断にゆだねるしかないのかもしれません。現場では初期の段階から、業務マニュアルを作ったところで儲かりませんよ…という声があったと、後になって聞きました。現場の人たちに、記述の重要性の話は通じなかったようです。

 

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