■組織の精神と「integrity」:ドラッカー『現代の経営』から

1 「人間としての integrity」

ドラッカーのいう「integrity」は多くの人に注目される概念のようです。ドラッカーは「人間としての]という限定をつけた「integrity」を論じました。「商人と顧客、自由業者とその顧客の間に必要とされているのは、仕事上の真摯さ」にすぎないのです。

「人間としての integrity」に関連したものを二度この欄で書いています。前回この概念が「プロテスタントの倫理」を叩き台にしたものではないかと、ほんのひと言だけ言及しました。長くなりそうだったので放置しましたが、もう一度見てみたいと思います。

プロテスタントの倫理については、マックス・ウェーバーが『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』で正面から取り上げています。この本についてドラッカーは全く認めていません。『ポスト資本主義』にも以下のように書いています。

▼今世紀初頭、ドイツの社会学者マックス・ウェーバー(1864~1920年)は、資本主義をプロテスタントの倫理の落とし子とした。もちろんこの有名な説は、今日では信憑性を失っている。根拠がない。

 

2 「THE SPIRIT OF AN ORGANIZATION」

ドラッカーが「integrity」の概念を明確に示したのは『現代の経営』13章でのことでした。原文は「The spirit of an organization」です。上田惇生訳では「組織の文化」と訳されています。本文も上田流のカンナがかけられて読みやすい自然な日本語です。

野田一夫監修の現代経営研究会訳では「組織の精神」と訳されていました。[1「組織の精神」の意義]という小見出しが立てられ、「組織の精神」に「エスプリ・ド・コール」と本文の語句を添えています。英語の原文にはこうした小見出しはありません。

ドラッカーが「資本主義の精神」を意識しながら、「組織の精神」を語っているということを野田監修訳は感じさせます。こちらが自然な読み方でしょう。資本主義という大枠を作ったのは、また別の機能でした。それをドラッカーは他のところで語っています。

 

3 企業家精神と組織の精神

ドラッカーの論文「シュンペーターとケインズ」で、シュンペーターが[現代の経済は常に動的な不均衡状態にあると考え]、[経済学の中心問題は均衡ではなく、構造変化であると]主張した[革新者を経済学の真の主役とする]理論に注目しています。

シュンペーターは[企業家精神こそ経済の本質]とみて[革新者だけが真の利益を生み出す]と考えました。革新者の利益は永遠でないため、[それは昨日の資本設備と資本投資を陳腐化させる。したがって、経済が発展するほど資本形成が必要となってくる]。

ドラッカーは[革新者こそ、われわれが利益と呼ぶものの存在を説明できる唯一の根拠]であると確認します。資本主義の形成にかかわるのは企業家精神、つまり「アントレプレナーシップ」です。以上を前提にして「組織の精神」に話が進んでいきます。

▼ケインズ経済学は、投資や消費といったマクロ的な動きが経済の発展や変動をどのように生み出すかという問題を主に取り扱ったが、実際に投資を行うのは個々の企業である。したがって、マクロ経済学は企業を中心としたミクロ経済学によって補完されなければ本当の役には立たない。ドラッカーはケインズやシュムペーターによって築かれたマクロ理論に、「企業」というミクロ的基礎を与えた。   金森久雄『大経済学者に学べ』

金森久雄の指摘するように、ドラッカーは「企業」という組織の役割と機能を基礎づけました。「組織の精神」とは個別・具体的な組織における精神のことです。同時に組織の精神の本質となる行動規範があるとドラッカーは言います。それが「integrity」です。

⇒ 続きます。 【その2…】

 

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