■日本語のバイエル再び:新たな質問に答えて

 

1 日本語における「subject」の概念

以下のような質問が届きました。【「この本は面白い」のsubjectは「この本は」ですね。「この本は面白かった」のsubjectは「この本は」ですか。私は違うように感じます。日本語の形容詞が述語の文は、勉強していけばいくほど難しく感じます。】

ここでまず問題になるのは「subject」の概念です。日本語文法には「主語」と呼ばれる概念がありますが、明確な定義がなされていません。「は」の接続する語句を「主題」と呼び、「が」の接続する語句を「主語」=「主格補語」と呼ぶこともあります。

英語のように、主語があって述語動詞があって両者が車の両輪のようになっている言語の場合、「subject」は必須の存在です。日本語の場合、こうした両輪の関係にはなっていません。日本語の場合、「キーワードA/B/C」+「文末」の関係と言えます。

日本語の文で圧倒的な役割を持つのは文末の語句です。あえて英文法の用語を使ってモデル化すると、英語の場合、重要性でいえば、「主語」=「述語」という両輪の関係といえるでしょう。日本語ならば、「主語+補語+目的語」=「述語」になりそうです。

 

2 キーワードと文末の語句

日本語の場合、後ろに重要な語句が置かれます。文で一番大きな役割をするのは文末の語句です。この文末の語句と対応関係(呼応)のある語句がキーワードになります。文末の語句が文の幹であるならば、主要な枝がこのキーワードだということです。

日本語では、この主要な枝を種類分けして、それぞれに名前をつけようとして苦労しています。「subject」=「主語」とならないのです。いわゆる「主語」をそれほど意識していませんから、主語にあたる語句が見当たらない文もめずらしくありません。

「今日、私は図書館で本を借りました」ならば、「今日…借りました」「私は…借りました」「図書館で…借りました」「本を…借りました」となります。「今日・私は・図書館で・本を」のそれぞれがキーワードになっていて、それぞれの語句の役割が違います。

この文の主語が何かと言えば、一般的には「私は」でしょう。小学校の2年や3年の教科書にも、「私はどうした」とか「私がどうした」とあったら、「私は/私が」が主語だと説明されています。このくらいラフな説明の方がかえってよいのかもしれません。

 

3 無理がある品詞による文構造の分類

かつて日本語のバイエルのサイトで「この本は面白い」と「この本は面白かった」の違いについて書きました。「面白い」の過去形は何かといえば、たいてい「面白かった」という答えになります。しかしそんなに簡単な対応関係ではありません。

「面白い」というのは、対象となるものの性格や状態を表している文末であり、「面白かった」の方は、経験がどんなものだったかを示す文末といえます。「旅行は楽しかった」「料理はおいしかった」という場合、経験する人がいるのが前提です。

日本語の場合、文末の意味するところと文の構造が一致しないと不安定な感じになります。質問にあるように、文末が「面白い」の文も「面白かった」の文も、従来の文法では「形容詞が述語の文」=「形容詞文」という品詞による分類になっているはずです。

品詞を基準にして日本語の文構造を分析すると、無理がでてきます。私たちは「本がある」と「本がない」を対の文だと感じるはずです。ところが、「ある」は動詞、「ない」は形容詞ですから、「本がある」は動詞文で、「本がない」は形容詞文になります。

文末の中心語句の品詞に基づいて文を種類分けしても、意味がありません。読み書きするときの感覚とズレているのです。ご質問の中に「日本語の形容詞が述語の文は、勉強していけばいくほど難しく感じます」とあるのは、従来の文法の問題と言うべきでしょう。

 

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