■誤読を積み重ねる「ストロングなプロの勉強法」:米長邦雄

 

1 ストロングな学生

今年の就職活動がもう始まっています。強い会社の募集人数が減っているようです。そうなってもおかしくない環境でしょう。面接で聞かれることも、昨年から付加価値のつけられる人物かどうかを気にしたものになっています。変化が確実に起きているのです。

こういうとき不安心理が働くのか、入りたい会社の社員さんに相談したり、アドバイスをもらってきて、それをこちらに投げてきます。圧倒的な学生までそんなことをしているのです。自分で一番いいと思うことを、よく考えて見つけることに尽きると思います。

こう考えるのはおそらく米長邦雄と柳瀬尚紀の『<カン>が<読み>を超える』での対談の影響です。柳瀬はハロルド・ブルームの『影響の不安』の理論を引いて、前を行く人の影響を気にする人はウィークなのだと紹介しています。変革者ならウィークです。

ブルームは[詩人を偉大だとかマイナーだとかというふうに分けないで、”強い詩人”と”弱い詩人”とに分類]し[ストロングな詩人というのは、先駆者の影響の不安というものを克服してしまう]と言います。学生なら[ストロング・スチューデント]です。

 

2 影響の克服方法

先輩たちがどうしたのか、たしかに気になるはずです。しかしそれを気にしすぎて囚われたらその人らしくなくなります。これは学生に限らないでしょう。先駆者の影響を乗り越えるために、ストロングな人たちは何をするのか、柳瀬が解説しています。

ブルームは[読みということについて、絶えず”誤読”、読み間違いをすることがストロングな読みである]と。[そうやって自分たちにとっての想像力のスペースを、空間をだんだん拡げていく、クリアしていく]。影響を克服するための方法といえるでしょう。

ここでいう誤読について、米長は将棋に引き寄せて語っています。[自分で考えて結論を出せば、それが勉強。唯一の勉強なんですね]。正解を出すことではありません。[正しいというんじゃなくて、”誤読”の繰り返しによって将棋は強くなる]というのです。

 

3 米長邦雄の勉強法

米長は勉強の段階を3つに分けて考えています。これはビジネス人にも参考になるものです。まずはじめはルールを覚える段階、二番目が、強い人から吸収する段階、最後が自分で答えを出す段階になります。二番目まででは、やっとプロレベルということです。

第一段階では、強い弱いじゃなくて将棋を知らない段階だから、[一時間の間にいっぱいいろんなことを考えて一局だけ指すんじゃなくて、五分で一局ぐらい指して、一時間の間に十局ぐらい指す]のがいいということになります。

第二段階でプロにつくことになります。読むことができて予測できるので、[定石の本を買って読むとか、テレビを見て、「あ、いい手があるな」と][自分よりも強い人からいいものを吸収していく]。しかしこれだけでは[タイトル取るときにはダメ]です。

第三段階のプロになりたての頃の勉強の中心は[ある局面を読むんです]。このとき[たいがいの人は][誰と誰の将棋だろう][形勢判断はどうか][その局面に至るまでにどういう手順できたか。つまりそういうことを知りたがる]。これでは不十分なのです。

▼自分はこの手がいちばん正しいんじゃないかとか、この手がいちばんいい手じゃないか、形成はこうじゃないかという答えを出すんですね。それで勉強はおしまいになるんです、そこで。そうしますと、間違いだらけなんですね。読んだことはみんな”誤読”だらけなんですよ。弱い人間が難しい局面を見てるわけでしょう。だから間違いだらけなんですよ。

このとき正解の解説など[これは余計なことなんです]。[この局面でこういう動きをすれば自分は勝てるんだという、”勝負カン”]は[どこでもって培われるかというと、それは”誤読”なんですよ。それ以外にないんですね]。プロの勉強の指針というべきしょう。

 

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