■客観性のある一歩進んだ論述:出色の経済レポートを参考に

 

1 客観性に必要な「測定」と「比較」

きちんとしたレポートを書くのは簡単ではありません。結論や結果など、重要なことを最初に簡潔に書けば、レポートの価値は高くなるでしょう。さらに上を目指す場合、客観性が必要となります。客観的な質の高いレポートにするにはどうすればよいでしょうか。

客観的というには、2つの条件が必要です。第一に、合理的な判断基準に基づいて状況を「測定」をすること。これは状態・状況の客観的な把握といえます。第二に、測定結果を標準値と比較して評価をすることです。これが状態・状況の客観的な分析になります。

ビジネスで使われる「実行→測定→比較」という管理の手法そのものです。「測定」するには測定基準と測定方法が必要です。「比較」するには標準値や目標が必要になります。測定し比較する発想は、物事を客観的に見るときの原則ともいうべきものです。

 

2 専門家が分析に使った道具

たぶん2010年末だったと思いますが、リーマンショック後のチャイナ経済に関して、大手商社出身の人たちで作ったコンサル集団のリーダーから、今後の見通しをお聞きしたことがあります。専門家というのは、こうやって考えているのか…と思って印象的でした。

土地も人も好条件なうえ、政府の財政出動で国内におカネが回りだしたときに、欧米からの外資流入が拡大している。成長が止まるはずないという分析です。裏づける数値もそろっていました。すぐれたレポートを書くときの条件に適った話だと思います。

専門家が分析に使った道具はシンプルで客観性のある基準と評価でした。こうした分析ができるのは専門分野のことだからでしょう。しかし専門外のことでも、分析方法と論述形式なら学べるはずです。どんな形式で論じるべきか、事例をもとに考えてみます。

 

3 出色のレポートの論述形式

日経新聞Web版(2018/11/13)の中前忠「中国はなぜ成長できないのか」は出色のレポートです。産業別の生産性に注意を促した上で、チャイナ経済は[生産性の最も高い第2次産業が拡大できなくなったため、全体の生産性の上昇が鈍った]と分析しています。

▼第2次産業の1人当たり付加価値額は1万5500ドル(国連、15年)だが、第3次産業は6800ドル、第1次産業は1900ドルと大変に大きい格差だ。生産性の一番低い第1次産業から、一番高い第2次産業に労働力が移行する工業化が終わり、脱農業化から出てくる余剰労働力は第3次産業に向かわざるを得なくなっている。ちなみに、中国の第2次産業の就業者比率27%は、日本とドイツとほぼ同じだが、米国、英国では17%台でしかない。

産業別の生産性とその従事者の割合から、国の成長力を見る視点が示されています。日本の高度成長が起こったのも、生産性の高い第2次産業が拡大する過程でのことでした。成長が停滞してきたのも、第2次産業の拡大が出来なくなってきてからのことでしょう。

こうした視点を基礎にして、焦点を絞った論述を展開していきます。中前は[工業化が終わり、サービス化が始まると、成長率が大きく減速する。この過渡期に、工業化を急いだ国ほど過剰設備、過剰債務という難題が待ち受ける]という基準を示しました。

「中国はなぜ成長できないのか」の答えは、[転換の時期に国際収支が悪化してきている]こと、[資本の流出を抑制しても、対外債務の返済のため人民元安への圧力が収まらない]からです。一歩進んだ論述をするときの参考にすべきレポートだと思います。

 

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