■マーケティングの基本と私法の基本構造:「誰が・誰に対して・何を・どのように」

 

1 「誰に・何を・どのように」の概念

マーケティングというのは、ひとことで言うとどういうものですかとお聞きすることがあります。企業のマーケティング部門にいましたという方にお聞きしても、答えが明確な方はまずいません。実践的なマーケティングのプロの話を思い出します。

以前、【Who/What/How:誰に・何を・どのように…のシンプルで強力な戦略手法】でご紹介したマーケティングの専門家なら、マーケティングとは「誰に・何を・どのように売るかを決めることだ」という答えになります。この答えを期待してお聞きしたのです。

石井淳蔵は『マーケティングを学ぶ』でSTPという概念を紹介しています。顧客を細分化(Segmentation)し、向きあう相手の層をターゲットとして決め(Targeting)、他と差別化した地位を獲得する(Positioning)という手順がマーケティングの定番だとのこと。

ところがこの[STPの概念に、もう一つの要素をつけ加えなければならない。それはオペレーション(ないしは技術)である]と記します。そうなるとSTPの概念にオペレーション(Technology)が加わって、STPTの枠組みができるようです。

このSTPTをまとめると、[「誰に向けて、どういう価値を、どういうオペレーションあるいは技術で提供するのか」という形で整理できる]と記しています。なかなかご苦労なことです。本来、「誰に・何を・どのように」が先にくる概念のはずでした。

 

2 マーケティング用語への違和感

小さな勉強会などで、リーダー格のビジネス人の方々が、しばしばおっしゃることがあります。すぐにセグメンテーションとか、ターゲティング、ポジショニングという用語が出てきて違和感がある。この横文字は何かズレている気がするという指摘です。

実務家の人たちは気がついているようでした。実際にうまく行ったときに、顧客を細分化して、ターゲットを定め、差別化した地位を獲得し…という風に頭を働かせていなかったということです。この三つの概念は実践と違うということになります。

私が、「誰に・何を・どのように」というふうに考えるように教わってきましたとお話をすると、それだそれだということになります。石井淳蔵はこのことが解っているために、STPTの枠組みを紹介したうえで、それを再編成したのかもしれません。

本来、この「誰に・何を・どのように」という枠組みは、「誰が・誰に対して・何を・どのように」という基本構造だったはずです。マーケティングを考える場合に、自分たちが行動するのですから、この「誰が」という概念が抜け落ちたということでしょう。

 

3 ビジネス活動:私法の枠組みの中でなされる活動

「誰が・誰に対して・何を・どのように」という構造は、民法とか商法(会社法等)などの私法(私人の権利)に関する枠組みでした。私法とは、国家機関の入り込まない民間の「私人」どうしの権利関係について定めた法規のことを言います。

ここで、「誰が・誰に対して」というのは、ある人が、ある人に対して権利を主張する場合にあたります。権利を主張する当事者が「主体」、権利を主張される相手側の人が「客体」になります。「主体」から「客体」に対して、権利を主張することです。

次に、「何を」主張するかが問題になります。私法の場合、主張できる権利が二種類に分かれます。人に対してどうするようにと要求する権利が「債権」です。物に対して、これは自分のものだと主張する権利が「物権」になります。

ここまでが「誰が・誰に対して・何を」です。「主体」が「客体」に対して、「債権」ないし「物権」を主張するという構図です。このとき主張する根拠が問題になります。どのように権利が決まるのか、その根拠が問われることになるのです。

どのように権利が発生し、権利が移り、権利が消滅したのか…が問題になります。契約がある場合なら、契約に基づいて権利が発生し、あるいは変更し、消滅することになるはずです。契約がない場合でも、相続とか時効という形で権利が確定することになります。

以上が、「誰が・誰に対して・何を・どのように」という枠組みです。主体が客体に対して、債権ないし物権を主張する、その際の主張の根拠は契約あるいは契約に基づかない法律関係の変動ということになります。以上、若干面倒な話かもしれません。

大切なことは、ビジネス活動が私法の枠組みの中でなされているということです。債権と物権の二種類の権利が生まれ、私法関係が近代化された後に、会社によるビジネス活動が活発化してきました。もともとのビジネスの枠組みが私法の枠の中にあったのです。

マーケティングを考えるときの基本的枠組みが、STPとかSTPTだと言われると妙に感じるのも仕方ありません。リーダーたちがビジネスの枠組みにそった「誰に・何を・どのように」の概念が安定していると主張するのも、根拠のあることなのです。

 

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