■GDPの高度成長と人口動態:日本と中国を例に

 

1 フィードバックの基礎となる測定の正確さ

フィードバックの原則は「実行し、測定し、比較する」ことです。測定と比較は実行を評価するときの基礎になります。測定の正確さが前提です。ただ個人や小さな集団なら正確な測定も簡単かもしれませんが、集団が巨大になると測定するのは簡単でありません。

先日、中国の2017年分のGDPの数値が地方政府の個別発表の合算額と国家統計局の速報値で約3兆元(=約52兆円)のずれがあると報道されました。巨額にも見えますが、83兆元ちかい数字の3兆元ならたいしたことないということになるかもしれません。

ここで言えることは、①統計の数値の正確性・信頼性はその国の信頼性の表れだということ、②政策実行のためにも精度を上げていく必要があること、③統計を偽装しても実態が変わることがないこと…などでしょう。大切なのは実態です。そちらが先行します。

旧ソ連が崩壊したとき、GDPなどの経済統計の数値が大幅に水増しされていたことがわかりました。今回の中国のケースがどの程度のことであるのか、わかりません。GDP成長率が不自然なほど変動しなかったので、もともと信頼性に疑問はありました。

 

2 トレンド予想に使える二つの指標

中国の経済の実態はどうなのでしょうか。それを探る方法はあるのでしょうか。中国経済を数値で把握しようとする場合、貿易統計は他国との数値の照合がなされるため、正確だと言われています。それでは貿易統計を見ると何が見えてくるのでしょうか。

2017年の中国の貿易統計を見ると、輸入が約17%伸びています。経済状態はよかったのだろうと推定されます。しかし貿易統計を使って分かるのは、短期の経済実態でしかありません。中長期の経済成長を予測するには貿易統計だけでは情報不足です。

中長期の経済トレンドを見ようとするとき、貿易統計に限らずその時点の数値はあまり役に立ちません。おそらく指標として使えるのはGDP成長率の数十年単位の実績と人口動態だろうと思います。その国の政策担当者も、この二つを使っているはずです。

GDPの成長の場合、名目と実質の両方を、それぞれグラフ化すれば一目瞭然です。日本の1992年のGDPが491兆円で2011年も同じく491兆円ですから、20年間の経済成長がゼロだったことになります。世界的な経済的地位が上がるはずありません。

同じ期間に中国は人民元ベースでGDPが約18倍になりました。世界的な地位が上がるのは当然です。大幅な水増しがあったとしても成長自体は否定できないでしょう。ただ2016年までの最近5年間のGDP拡大は3割程度です。成長率が少し落ちています。

今後どうなるのでしょうか。ドラッカーのいう「すでに起こった未来」の典型例が人口動態です。いま20歳の人は20年後に40歳になります。死亡率は無視できる程度のはずです。いきなり5歳で生まれる人はいませんから、人口のトレンドはすでに見えています。

 

3 環境激変と人口動態転換時の経済政策

数十年単位のGDPの成長と人口動態で何が見えるのでしょうか。まず高い経済成長率が続いた国が対外的な経済変動に巻き込まれた場合、どう行動するかだいたいの予測ができます。積極的な経済政策の発動で落ち込みをマイルドにしようとするはずです。

二度のオイルショックのとき、日本では積極的な財政出動がなされました。リーマンショック後の中国でも同じように4兆元(約60兆円)の巨額な景気刺激策がとられています。その後、日本も中国も世界の経済的な地位を上げることになり、政策は成功でした。

1980年代に入ると日本では高齢化と社会保障費の増大が注目されるようになります。再び経済の高い成長がやってくるというマインドが残っている時期でした。こういうときに緊縮財政政策をとるのは合理的ではありませんし、政治的にも無理があります。

3歳の人より30歳の人のほうが買い物をします。80歳の人より40歳の人のほうが消費するはずです。消費の盛んな25歳から55歳の人口が増えたら、国内消費は伸びていきます。これが逆になるのです。日本では制度改革と経済政策で対応しようとしました。

人口動態の転換が見えていますから、成長率をあげたくなります。日本では1980年代後半に好景気になりましたが、経済のバブル化が起こります。その対応に失敗して経済成長なしの「失われた20年」が続きました。トレンドが変わったのは最近です。

今後の中国経済はどうなるでしょうか。まず一人っ子政策が続いた結果、急速な高齢化が進んで成長力が低下すること、また経済統計の不正確さが政策ミスを引き起こすリスクのあることが指摘できるでしょう。中国は難しい経済運営の時期にあると考えられます。

 

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