■目的達成の5つの方法 1/2:デカルト『方法序説』の4つの準則にないもの

1 学生に人気のあったデカルト『方法序説』

数年前、ある私立大学の学生に哲学史の講義をしたことがあります。熱心な受講者に恵まれて充実した時を過ごしました。その後、数年講義をしましたが、なぜか最初の年の学生だけは様子が違いました。その年の学生の何人かは実際に哲学書を読んでいました。

哲学者の中で圧倒的に人気があったのがデカルトです。『方法序説』を読んでいた学生たちが講義のアンケートに自分の意見を書いてきました。講義でも、ドラッカーの見方や木田元の見方を紹介しましたが、それでもデカルトが好きだと言うのです。

アンケートに意見を書いた学生全員が、問題を分割して考えるという方法が、いまの自分に影響していると言っていたのが印象的でした。それに加えて過半数が支持していたのが定量化の発想でした。私たちにはモダンの方法がなじんでいるようです。

 

2 現代でも実感に合う考え方

講義を聞いた学生が何を大切に思っていたのか、講義の後の会話でも明らかでした。論理がほしいということです。たいてい問題を分割してみると何かが見えてくる。問題を分割して、その原因を探る方法が論理的だと感じるということでした。そうかもしれません。

問題がすでに存在するとき、まず分割するという方法のシンプルさに論理を感じるようでした。『方法序説』を読んだ学生は、実際にそうやって考えていると言うのです。1637年出版の『方法序説』が現代の学生の実感に合っているというのは驚くべきことです。

定量化して数字にすることの効果も実感しているのです。受験時代の勉強でも、どれだけ点数が上がったかを見ることで、何に効果があったのかがわかると語った学生がいます。他の学生もすぐに同意しました。自分の経験に基づいてデカルトを支持しているのです。

こんなことを思い出したのも、若いビジネス人が似たことを語っていたからでした。ただしビジネス人になると、問題にする対象が学生とは多少違ってきます。学生がもっぱら個人の問題を対象とするのに対し、ビジネス人は組織の問題まで考えが広がるのです。

 

3 ポスト・モダンの時代の道具

若いビジネス人が、モノを分割して考えるとき、ビジネスの問題が対象になってきます。個人の問題はわきに追いやられます。そして大切なことは、すでにある問題に対してだけでなく、問題発生を起こさないように、分割して詳細を確認しているということです。

問題を分割する要素還元主義や定量化というデカルトの方法は、実際に効果のある方法であるということでしょう。デカルトのモダンの方法だけでは対応できないポスト・モダンの世界に足を踏み入れていながら、方法はモダンのデカルトの方法に偏っています。

ドラッカーが「未知なるものをいかにして体系化するか」(『テクノロジストの条件』所収)で、ポスト・モダンの時代である現在でも、[厳密な作業をする道具としてはデカルト的世界観に立つ古びた方法論しかもたない]と指摘していることが思い出されます。

医学でいえば、さまざまな検査における数値が、どれほど身体状態の把握に役立っているかわかりません。正常値との比較から症状の程度まで見えてきます。モダンの方法を否定することに意味はありません。問題は、モダンの方法に何が足らないかです。

 

4 目的達成のための5つの方法

デカルトの成功は4つの準則に絞った点にあるかもしれません。『方法序説』第2部にある4つの準則にそって考えるだけで、私たちは頭を論理的に働かせたという気になります。この4つを鹿島茂は『進みながら強くなる』で簡易に言いかえました。以下です。

1 すべてを疑おう
2 分けて考えよう
3 単純でわかりやすいものから取り掛かろう
4 可能性をすべて列挙・網羅しよう

「すべてを疑い、分割し、単純から複雑へと進め、列挙し検討する」という一連の流れには、提示された全体や問題を解体・解決するという前提があります。これとは別のベクトルが必要かもしれません。全体像の構築、目的の達成の方法が求められるのです。

1 目的と重要要素に基づいて、全体像を構築する
2 目的達成のために何が求められるか、ネックとなるものを問う
3 目的達成といえる具体的なゴール(目標)を設定する
4 ゴール(目標)に到達するルートとプロセスを示す
5 実行し測定し(想定と)比較して対応を決めるフィードバックの方法を採用する

これらはマネジメントの基礎でもあります。何かをなすとき、成果を上げるための方法がマネジメントです。私たちはすべてを疑うことなどできません。完全な根拠がなくても、志や信念をもって、より正しい方向に進もうとすることも必要でしょう。

この項、つづきます。

 

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