■渡部昇一の代表作『アングロサクソンと日本人』:日本語の文章の情報量

1 渡部昇一の代表作

渡部昇一の代表作は何か、簡単に決められません。何百冊も著作があるようですから、その一部しか読んでいませんが、今後とも読まれるべき本が何冊かあります。2017年4月17日、86歳でお亡くなりになりました。ここで振り返ってみたいと思います。

渡部昇一の専門は英語学です。渡部昇一先生古希記念論文集『フィロロギア』に「研究業績」として1958年にドイツで出版された300頁の学位論文に加えて、日本語の本が11冊列記されているとのこと。谷沢永一『論争必勝法』に紹介されていました。

1965年 『英文法史』
1973年 『言語と民族の起源について』
1975年 『英語教育大論争』
1977年 『英語の語源』
1977年 『秘術としての文法』
1983年 『英語の歴史』
1987年 『アングロサクソンと日本人』
1989年 『英語語源の素描』
1990年 『イギリス国学史』
1996年 『英文法を撫でる』

英語に関する本が並びます。この中で一般の人向けで、ぜひとも読むべき本が『アングロサクソンと日本人』です。新潮社の「文化講演会」の講演を書き起こしたものに手を加えています。半年に6回行われた講演をまとめた225頁の本です。

 

2 知識伝達の情報量:日本語と英語

若手のビジネス人との勉強会でこの本をテキストに使ったことがあります。一般向けの講演会の内容ですから難しくありません。わかりやすいお話です。大学の講義を聞くつもりで1章ずつ読んでいこうとしましたが、内容確認をしてみると読めていません。

情報量が多くて、さらっと読んでわかったつもりでいると、わかっていないことが多々出てきます。この本が読めるかどうかで、基礎的な読解力のチェックができるかもしれないと思ったりもしました。お話を聞いた人もわかったつもりの人が多かったはずです。

かつて清水幾太郎が1959年の『論文の書き方』で、自分の訳したE・H・カーの本がイギリスのラジオで話されたものであると確認してから、言いました。日本語と英語を比較すると[知識の伝達に関する限り、日本人はイギリス人に完全に負けるであろう]。

もはや昔話です。渡部の本の情報量はカーの本に負けていません。英語での知識伝達量と日本語での知識伝達量は、もはや違いがなくなったとみるべきです。問題は読む側にあります。訓練していない人だと、この情報量についていけないかもしれません。

最近に限らないことですが、かなり仕事のできる人達が読解力や文章力が心配だと言っています。日本語が変わってきたのは1980年代頃でしょう。文章の骨格がしっかりしてきて、多くの情報量が載せられる文章が確立しました。当然そのための訓練が必要です。

勉強会では、この本の内容についてビジネス人とやり取りをするはずでした。歴史の教科書を読むよりもずっと興味深い内容が語られています。まちがいなく読んで面白い本です。ところがその前に読解力が問題になりました。そんなことでも印象深い本です。

 

3 「国語が消えた」イギリス

6つの章はそれぞれ30頁強からなり、ひとつひとつ独立して読めます。興味のあるところから読むことも可能です。平川祐弘は[私は「国語が消えた」の章と「国語の整理の仕方」の章を特に興味深く読んだ]と推薦文に書いています。以下が6つの章です。

第一章 「高等宗教」がやってきた
第二章 国語が消えた
第三章 都市が生まれた
第四章 理性より常識を
第五章 国語の整理の仕方
第六章 イギリスはわれわれに何を教えるか

第二章を見ましょう。[英語というのは、元来は完全にドイツ語の方言であった]とあります。散文が成立したのは『イギリス教会史』を[九世紀の終わり頃に、アルフレッド大王は英語に訳させた]ためであり、[これがイギリス英語の散文の始まり]とのこと。

[アルフレッドが築いた文化がそのまま150年ほど維持される]が、[アングロサクソンの最後の王様といわれた]エドワード王が[子供を作らず死んだ]ため、ノルマンディー公ウィリアムが上陸して即位してしまいます。それから3~4年戦闘が続きました。

戦闘の後、[イギリス側には貴族というのがほとんどいなくなった]ため[ウィリアムについてきた連中が全部イギリスの貴族になった]。王は[バイキングであるが、すっかりフランス化している]から、王も貴族も[フランス語しかしゃべらない]のです。

イギリスから国語(英語)が消えました。その後の推移も興味深く語られています。日本ではどうだったでしょうか。まさにアングロサクソンと日本人の話です。この章に限らず、内容にこれだけの充実さがあるなら、研究業績に加わるのも当然だと思います。

 

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