■読点に関する2つの注意点:本多勝一『日本語の作文技術』への違和感

 

1 読点の効果を示した本多勝一

文章が苦手と言う人たちがだんだん増えてきている感じがします。講義で手をあげていただくと、ビジネス人の集団でも8割程度の人が苦手のほうに手を上げる場合があります。文をどう書いたらよいのかわからない、習っていない、評価基準が不明確…と言います。

ただ読点の場合、こういうときに点を打つようにという話を聞いたことがある人もいるかもしれません。公用文での読点の打ち方について、7つのルールを示している本がありました。しかし使いにくいルールです[公用文の書き方とビジネス文の書き方の相違]

わかりやすい例文で、読点の打ち方に注意喚起したのが本多勝一『日本語の作文技術』でした。この本を読んでよかったという人に、何人か会っています。「渡辺刑事は血まみれになって逃げ出した賊を追いかけた。」という例文を知っている人もいるでしょう。

この文がまずいのは、「血まみれになって」が刑事のことを指して言っているのか、賊について言っているのかわからないという点にあります。こういう場合、読点を上手に打つことで、内容が明確になります。ちょっとした違いが効果を大きく変える例です。

 

2 読点で文の意味が変わる例

この本を知らない人が増えてきました。1970年代に出た本ですから、若干古くなってきたのかもしれません。読点についての例をもう一度確認しておきましょう。刑事が血まみれになったのなら、「刑事は血まみれになって、逃げ出した賊を追いかけた」です。

「血まみれになって」の後に読点があると、そこで区切れます。そのため「刑事」と「血まみれ」が結合して、「血まみれ」であるのが刑事であることが明確になります。逆に「賊」が「血まみれ」だというなら、読点の打ち方が変わってきます。

「刑事は血まみれになって逃げ出した賊を追いかけた」のどこに読点を打てば、「賊」が血まみれであるとわかるでしょうか。上記の例を示した後なら、本多の本を読んでいない人でも正解を出します。「刑事は、血まみれになって逃げ出した賊を追いかけた」です。

読点は区切りを示しますから、打つ位置によって、この例文のように意味が変わることがあります。こうした例文を示されると、読点の重要性に気がつくでしょう。しかし、これが曲者でもあります。これは[「読点の極意」:ビジネス文の場合]でも触れました。

宮脇孝雄は『翻訳の基本』で「読点の極意」という項目を立てています。[読点の打ち方次第で意味が変わるようなら、それは下手な文である]と書いています。読点は重要ですが、読点ひとつで文の意味が変わってしまう形式の文は好ましくないのです。

 

3 読点についての2つの注意点

並べてみると分かるはずです。「刑事は、血まみれになって逃げ出した賊を追いかけた」と「刑事は血まみれになって、逃げ出した賊を追いかけた」は読点の位置が違うだけです。両者の区別を、読点の位置だけで示すのは読点への負荷が大きすぎます。

音読したものを聞いただけで、意味がぱっと分かる方がよいと言うことです。本多の本にも、賊が血まみれの場合の例文として、「血まみれになって逃げだした賊を刑事は追いかけた」という文が示されています。しかし、この文はすっきり頭に入りません。

主語と述語を近づけるようにという提言もかつてよくなされました。「刑事は追いかけた」とあれば、主語述語の関係がわかりやすいということでした。しかし、「賊を刑事は追いかけた」よりも「刑事は賊を追いかけた」のほうがわかりやすいでしょう。

この「刑事は賊を追いかけた」に「血まみれ」という情報を読点なしにわかりやすい形式で付加できれば、よいのです。じつは「血まみれになって」がよくなかったと言えます。単純に「血まみれの」という形式の語句を付加すればよいだけです。

「血まみれの刑事は逃げ出した賊を追いかけた」とするか、「刑事は逃げ出した血まみれの賊を追いかけた」にすれば事足りるということになります。これに読点を打つことも可能です。「血まみれの刑事は、逃げ出した賊を追いかけた」でもよいでしょう。

まとめると2つになります。(1)読点だけで意味が変わる文は書かないほうがよいということ。(2)読点なしに通じる文であっても、語順が不自然に感じる文は好ましくないということ。読点に関して、この二つが重要な点だと思います。

追記: 刑事が賊を追いかけているのですから、「逃げ出した」とあえて言う必要はないでしょう。読点の問題なので入れておきましたが、それぞれ「血まみれの刑事が賊を追いかけた」、「刑事は血まみれの賊を追いかけた」のほうが明確でよい文だと思います。

 

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