■文章に対する文法的なアプローチについて:5文型を参考に

 

1 文法的な間違いへの評価

日本語について慎重な発言をすることが多いのに対して、英語になると、率直な意見が表明されることがあります。ご本人はとくに意を決して言ったはずもなく、常識的な話をしただけなのでしょう。鳥飼玖美子『本物の英語力』にもそんなところがあります。

▼(英米人の場合)少なくとも少々間違った発音だからと言って不快がることはなく、外国人なんだからしょうがない、と許してくれます。ところが、文法が間違っていると、単純に「教養がない」と思われてしまいます。メールで書いた英語が文法的な間違いだらけだと、「うーん、この人、教育程度が低そう」と誤解されてしまいます。 (p.61)

「教養」とか「教育程度」などと、何となく言いたくない雰囲気があります。しかし、どうやら常識のようです。文法的にきちんとした文章を書かないと、きちんと読んでもらえないのは常識だと、講義中におっしゃった英米人の先生がいました。

アメリカ心理学学会では、文法規則に沿った文章を書くようにマニュアルがついているそうです。英語の場合、国際的に使われていますから、ルールがないと正確な意味が取れなくなるリスクがあるのかもしれません。しかし日本語についても同じ話を聞いています。

たまたま小さい頃から研究者や作家の人たちの中に連れて行かれることがありました。そこで語られていたのは、もっと強烈な言い方でした。書かれた文章でその人を判断する傾向は日本にもあります。もちろん皆さん、表だってそんなことは言いません。

日本語の場合、文法がまだ確立していませんから、文章のレベルが問題視されます。文章レベルというのは、作家からするとどうにもならない差に見えるのでしょうが、一般的にはあいまいな基準です。そうした点から、表立った発言がないのかもしれません。

 

2 文法に間違いのない人は教養人

鳥飼自身[私も、文法は大嫌いでした](p.62)と言い、[文法が苦手だった私は、目的語と補語の違いが分からなくて困った]と書いています。[「イコールでつなげられるのが補語」と教えてくれた人がいて、なるほどと思いました](p.66)とのことです。

それにもかかわらず[文法というルールを勉強しておかないと、コミュニケーションという試合には出られません]と言います。[最低限のルールを知る]必要があるということでしょう。では[何が基本なのかといえば、「文の構造と5文型」です](p.64)。

5文型ならたいていの人が知っています。学生に聞いてみると、日本語の文法なんて全く知らないと言いますが、5文型なら知っているというのです。ああそうかと思って確認しようとしましたが、聞いたことはあるけれども、わからないということでした。

おそらく5文型がわかっていると感じている人は少数派でしょう。私も自信がありません。最近になって、このあたりの事情にやっと気づきました。ある程度、文章が書けない限り、文法的なアプローチは難しいということです。当たり前だったかもしれません。

もう一度、前出の鳥飼の言葉を確認してみると、そこで言っている内容は、文法に間違いのない人は「教養」があって「教育程度」が高いということでもあります。外国語を書くときに、文法的に間違わないというのは大変なレベルだと言ってよいのでしょう。

 

3 学習文法の構築と学習プログラムが必要

『学習英文法を見直したい』の安井稔「学習英文法への期待」(pp..268~277)を読むと、文法の習得が簡単でないことがわかります。安井は[英語学習の初期段階において、いわゆる5文型がはたしている役割は極めて大きいと考えられます]と確認しています。

しかし[例えば、SVOCの型の文であると分かれば、生徒も先生もともに納得し、一件落着となります。けれども、その文がSVOCという文型であるということ自体は、どのようにしてわかるに至るのでしょうか]と問うています。簡単ではないのです。

▼文の意味が分かれば、文型の判定はすぐ可能となります。が、文意はわからないのに文型のほうははっきりしているということは、通例ありません。つまり、文型の決定に至る道筋は、文意の決定に至る道筋とほぼ重なっているということです。

まず先に、ある程度の文意が解るという状態があって、その状態において文型を検討するならば、文型が見えてきて、その結果として正確な文章の読み取りや記述ができるようになるということでしょう。ある程度英語に触れた後なら、5文型は非常に役立ちます。

▼5文型というのは、英語の学習初期段階において学習の出発点をなすものと考えられるものではなく、ある程度実際の英文に接したあと、それらの文の整理に役立つものとして、あとから提示されるべきものであると考えられます。

日本人であるなら日本語の文章はある程度書けます。したがって、文法が有効に働く条件は整っています。しかしネックになるのが文法用語と詳細すぎるルールです。どうも日本人はルール作りが上手でないところがあります。それが現行の文法にも見えます。

安井は「学習」英文法が大事だという前提に立って、そのために丁寧に教えていかないと簡単に文法は身につかないと考えています。日本語の場合、まずは「学習文法」を構築することが必要です。さらに学習プログラムが必要になるということでしょう。

 

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