■業務マニュアルとOJTの関係

1 OJTによって業務を習得

日本でマニュアルに基づいて経営をしていると思われている企業をあげていただくと、マクドナルド、ディズニーランドがまずあげられ、さらにここにセブンイレブンや外食産業の会社が加わってきます。ご存じの通り、マクドナルドやディズニー、セブンイレブンはアメリカ発の企業です。日本の企業はあまりありません。

マクドナルドの場合、アルバイトの方々がすぐに即戦力として働いています。何を行ったらよいのか、業務がきちんと決められているためです。いきなりたくさんのことを覚えなくても業務がはじめられるオペレーションになっています。こうした仕組みを作るのは簡単でありません。業務のオペレーションを構築して、業務マニュアルに記述しておく必要があります。

しかし業務マニュアルがあるからといって、業務従事者がマニュアルで業務を覚えているわけではありません。ほとんどの場合、OJTによって業務を身につけています。これはマクドナルドに限りません。ディズニーランドやセブンイレブンでも、OJTを通じて業務を身につけています。

 

2 3日の研修でデビュー

ディズニーランドでキャストの仕事をしていた学生がいます。いわゆるアルバイトです。彼女に聞いてみると、紙のマニュアルで業務を覚えるということはなかったということでした。東洋経済online 20170401 に載った櫻井 恵里子(ディズニーの元人材トレーナー)「ディズニーの新人キャストが15分で悟る本質」でも、以下のように書かれています。

新人研修やスタッフ教育の際、細かなマニュアルを作成し、配布している企業は多いと思います。
ディズニーキャストには、実はマニュアルが存在しません。
どのボタンを押せばアトラクションが動くか、止まるか、といったような動作を記した手順書はあります。しかし、「お辞儀の角度」「笑顔のつくり方」というようなサービスマニュアルは存在せず、キャストは企業理念である「ゲストにハピネスを提供する」ことと、「SCSE(安全・礼儀・ショー・効率)」という行動基準以外、ほぼ従うべき事柄はないのです。

業務の組み立てや企業理念、行動基準などを中心に記述するのが業務マニュアルです。その中でも中核的な理念や行動基準を簡潔な言葉にまとめて、それを様々な場面で繰り返し身につくように教育していきます。この教育をどうするか、様々な工夫がなされていることは間違いありません。

[キャストたちは、たった3日の研修で表舞台にデビューします]とのことです。教育プログラムの効果がうかがえます。日本の組織では、こうした教育研修やOJTのマニュアル化がまだ整備されていません。個人の努力にとどまることが多く、組織の財産として記述してそれを洗練させていくという点では不十分なところがあります。もったいないことです。

 

3 OJTは個別の人に向けられる

OJTを行うのは、当然ですが、汎用性のある業務ばかりではありません。逆に高度な業務ほど、OJTに依存することになります。大切な点は、業務が汎用性のある場合でも、高度な場合でも、共通する原則があることかもしれません。OJTは個別の人に向けて実施するものだといえます。

かつて汎用性のあるOJTマニュアルが作りたいという人がいました。これはOJTというものを誤解しているのだろうと思います。OJTの良さは人が人に教えるところにあります。OJTを行うとき、相手の反応を見ながら実施することが必要不可欠です。業務を標準化していくことと、その業務を習得するためのOJTマニュアルとでは発想が違います。

汎用性のある業務を構築し、それを記述しておくのは業務マニュアルにおいてです。汎用性のある業務を身につけてもらうために研修をしたりOJTをするときには、参加者一人一人の習得を見ながら、研修やOJTを進めていきます。当然、個別的な対応になります。

業務に関して、標準化できる領域は標準化すべきです。すべてを標準化することはできませんが、標準化できるところは標準化する価値があります。逆にそれを習得してもらう場合、相手に合わせて多様なOJTマニュアルが用意できたなら成果が上がります。どんなレベルの人にも、同じように使える汎用性のあるOJTマニュアルなど存在しません。

 

4 業務マニュアルの中核となる事項

OJTに限らず、様々な工夫を再現できるように記述しておくことは大切なことです。しかしこのとき、手取り足取りすべてを教えるわけにはいきません。コツを教えたり、考える基準を教えたりということになります。高度な業務ほど、業務を行う人が自分で考える領域が広がります。何でもかんでも記述するわけにはいきません。

部下がジャングルで敵と遭遇し、どうしてよいか分からなくとも、何もしてやれない。私の仕事は、そうした場合どうしたらよいかをあらかじめ教えておくことだ。実際にどうするかは状況次第だ。その状況は彼らにしか判断できない。責任は私にある。だが、どうするかを決めるのは、その場にいる者だけだ。  ドラッカー『経営者の条件』

東日本大震災のとき、ディズニーでの対応が絶賛されました。行動基準である「SCSE(安全・礼儀・ショー・効率)」は、この順番で優先されることが宣言されています。簡潔で明確であるからこそ、キャストと呼ばれる従業員(多くがアルバイト)の方々が、的確な対応ができたのでしょう。

日本の組織では、こうした行動基準や理念にあたるものが明確でないことが多くみられます。こうした簡潔で明確な指針を作ることはもちろん大変むずかしいことです。しかし、それを作ろうとしなくてはできるはずありません。業務マニュアルの中核に、こうした理念・ミッション・行動指針があってほしいものだと願っています。

 

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