■モデルチェンジの必要性:ドラッカーにおける洞察の背景

1 実践するQCの仕組み

TQCとTQMについて前回書きました。両者には概念の違いがあります。考え方からするとTQMに変えていくべきようにも見えます。しかしそんなに簡単にはいかないでしょう。日本のQCサークルは現場主義で、具体的な事例をもとに改善を行ってきました。

目の前の事例を基にした改善は地道な努力が実を結びやすい分野です。実際、成功しました。日本の場合、QCの考えを受け入れただけでなく、実践するQCの仕組みを作り上げたともいえます。西堀栄三郎はジュランが日本から影響を受けていると語っています。

日本でQCサークルを始めた松下通信には西堀の教えを受けた唐津一がいました。現場からマネジメントにあげて、組織がそれを汲みあげていく、上に向けての仕組みはできています。しかし業務品質を、モノの品質管理の手法で改善するのは考えにくいことです。

2 仕組み作りがマネジメントの成果

ドラッカーは品質管理とマネジメントを明確に分けて考えています。品質管理の手法をモノに加えて制度に当てはめても、発想が違いますから成果は上がりません。このことをドラッカーは『プロフェッショナルの条件』(2000年刊)の「はじめに」に書いています。

19世紀の半ばに至ってさえ、事業の成否はコスト格差、すなわちいかに安く作るかにかかっていた。20世紀に入って、それは今日のいわゆる戦略の有無に変わった。このことを最初に指摘したのが、拙著『創造する経営者』(1964年)だった。だがそのころには、すでに事業の成否は、知識の有無に移行しつつあった。私がこのことに気づいたのは1959年だった。そこから生まれたのが、拙著『経営者の条件』(1966年)だった。

「日本の読者へ」で明確に語っています。[戦後日本の奇跡については説明がつく。それは主としてマネジメント、特に企業マネジメントの成果だった]。QCの考えを導入したことよりも、実践できて成果の上がる仕組みを作り上げた点を、評価しているのです。

3 モデルチェンジが必要

1989年末に、ドラッカーは船橋洋一と対談しています(『月刊Asahi』1990年1月号:『世界が劇場となった』所収)。船橋は最初に「アメリカの衰退」を持ち出します。アメリカの相対的衰退をいい、覇権国の衰退パターン、ベトナム戦争にまで言及します。

ドラッカーは[だれもが衰退していると言うけれども、これは幻影だと思います。私はアメリカは衰退していないと思います]と否定しています。[製造業を見ると、50年代よりいい状態にあります]と、衰退どころか飛躍の時代が来ることを指摘しているのです。

世界の中では、いわゆるグローバル経済と、ナショナリスティックな政策の緊張が強まって、大きな会社はその間に挟まれて動きが取りにくくなっています。これに比べて中規模のものは違います。その面では、アメリカのほうが日本より構造的にずっと強くなっていると思います。

[現在はだれが楽譜を書くかが問題なのです。それがビジョン、勇気、リーダーシップです]。前掲の「日本の読者へ」で、奇跡のあと[今日日本は、140年前と50年前の二つの転換期に匹敵する大転換期にある]と指摘します。モデルチェンジが必要なのです。

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