■経済古典への優れた道しるべ:竹中平蔵『経済古典は役に立つ』

1 金森流学説史:『大経済学者に学べ』

金森久雄は経済学の本について、<一部は精読し、他は学説史でカバーする>こと、<その程度の気持ちでないと、経済学の波に巻き込まれて、自分の考えを発展させることはできない>と『大経済学者に学べ』に書いています。「学説史」というのは入門書です。

よい入門書があれば、原典を読むときに方向がつかみやすくなりますし、原典なしでも学説の大づかみができます。専門家でない私たちにとって、経済学説をわかりやすく説明してくれる入門書は貴重です。金森の本は「金森流の学説解釈」を示した良い本でした。

金森が解説の中心にした人は、ケインズ、フリードマン、シュムペーター、ドラッカー、マルクスと下村治、高橋亀吉でした。業務や経営の分野に関心のある人なら、シュムペーターとドラッカーの著作は原典に当たる価値があると、金森の本から感じるはずです。

 

2 10冊の経済学の古典

竹中平蔵は<現状をどう打開すべきなのか、その答えを見つけようとするときに><問題解決のスキルとして>経済学の古典を読むのだ、と『経済古典は役に立つ』に記します。安易なハウツーを語らず、また経済思想に偏った話をしないことが大切だと言います。

偉大な経済学者が<提示した問題解決のスキルが蓄積されて、結果として思想になった>のですから、学ぶべきは「問題解決のスキル」のほうだということになります。<経済古典の著者たちが実際にどう言っているのか、その生の声に触れることは重要>です。

竹中の本は一般人向け講義の5回分をもとにしています。金森の本と同様に、古典に直接触れるための手引きとして貴重です。引用が多めで、原典に挑戦する気持ちもわいてきます。この本で扱われるのは10冊の経済学の古典です。そのリストが参考になります。

アダム・スミス『国富論』
R・マルサス『人口の原理』
D・リカードゥ『経済学および課税の原理』
K・マルクス『資本論』
J・M・ケインズ『雇用、利子および貨幣の一般理論』
J・A・シュムペーター『経済発展の理論』
おなじくシュムペーター『資本主義・社会主義・民主主義』
M・フリードマン『資本主義と自由』
F・A・ハイエク『隷従への道』
R・E・ワグナー、J・M・ブキャナン『赤字財政の政治経済学』

 

3 経済古典へと導く優れたガイド

1924年の『マーシャルの伝記』にケインズは書いたそうです。<経済学が進歩し役に立つ学問であり続けるために、新しい経済学を構築しようとする者が書くべきものは、浩瀚な学術書ではなくむしろ時論的なパンフレットなのである>、体系化は後回しです。

ケインズはエリートでした。すばらしい洞察力を持つとともに、「エリートは間違わない」ということを前提にしました。ケインズが正しいかどうかよりも、<今の状況はケインズ的か、それともアダム・スミス的か>を問うべきだと竹中は注意を喚起します。

シュムペーターについて、<資本主義の本質を摘出してダイナミックな進化を考えるという大きな問題意識を持っていた。その意味では、彼の考え方は物理学よりも生物学に近い>との指摘は重要です。ドラッカーなら、エコロジカル(生態学的)かもしれません。

人間の合理性について、ハイエクが懐疑的であるのに対して、フリードマンは<人間は合理的に行動し、マーケットは合理的に将来を見通すことができると考えた>と竹中は指摘します。ハイエクの魅力はこの点にあります。この本の竹中は優れた道先案内人でした。

 

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