■読んで報われる哲学書:西洋哲学史の講義ノートから

1 ラッセル推薦の哲学書リスト

今年も哲学史の集中講義をするため、あれこれ文献を見ています。手に取ったラッセルの『哲学入門』の最後のところに参考文献が載っています。7冊の本がお勧めだとのことです。リストを見ると苦笑せざるを得ません。私たち一般人が読める本なのでしょうか。

<哲学について初歩的知識を得たいと思う人は、手軽な本から全体的な知見を得ようとするよりも、偉大な哲学者の著作を読む方が、より簡単に有益な知識が得られることに気づくだろう>…とラッセルは言います。立派なお話で、この点、その通りでしょう。

問題はリストです。プラトン『国家』(とくに第6、7巻)、デカルト『省察』、スピノザ『エチカ』、ライプニッツ『モナドロジー』、パークリ『ハイラスとフィロナウスの三つの対話』、ヒューム『人間知性研究』、カント『プロレゴメナ』を推薦しています。

 

2 読んで報われる哲学書を

プラトン『国家』について、岩田靖夫は『ヨーロッパ思想入門』で、<ヨーロッパ哲学全体のうちでも最高傑作の一つ>と言います。そうなのでしょう。しかし組織についての考えが現代と違いすぎますし、いきなり通読しようとしても相当苦労すると思います。

スピノザの『エチカ』は定義・公理・証明が何百頁にわたって並ぶ本です。簡単に読み通せる本ではありません。ライプニッツ『モナドロジー』は薄いのですが、<より簡単に有益な知識が得られる>とは考えにくい本です。バークリもわかりにくくて困ります。

もちろん読んで報われる哲学書がないとは思いません。デカルトの『方法叙説』なら、毎年何人かの学生が読んでいます。前述の岩田が<哲学とはなんであるかを知るための必読の古典>と言うとおりでしょう。わかりやすい記述ですし、分量も100頁足らずです。

 

3 中核となる4冊の哲学書

『方法叙説』をスタートにして、それ以外の哲学書で読む価値のありそうな本に、どんなものがあるでしょうか。例えばパスカルの遺稿集である『パンセ』を通読しようとしても無理があると思いますが、鹿島茂の抜粋版なら読んでよかったと思えるはずです。

ヒュームの『人性論』の主要部分をセレクトした中公クラシックス版も、読む価値がありそうです。解説もすぐれています。カントの『プロレゴメナ』は、カント自身が『純粋理性批判』を簡潔にわかりやすく論述した本です。この中核の4冊で十分だと思います。

1637年:デカルト『方法叙説』
1662年:パスカル『パンセ』[抜粋版]
1739年:ヒューム『人性論(人間本性論)』[抜粋版]
1782年:カント 『プロレゴメナ』

プラトンを読む前に、田中美知太郎『ソクラテス』を読むと理解が深まるはずです。私たち一般の読者が哲学者の著作にふれるなら、以上の順序で、あとは関心の赴くままに…でよいのではないでしょうか。こんな話を講義に加えてみようかと思っています。

 

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