■日本語を適切に書くための技術を求めて:規範英文法を参考に

 

1 正式な書き言葉を適切に書く

業務マニュアルでも操作マニュアルでも、作成のときに日本語を記述する能力が求められます。一番の基礎のところに、日本語を書く能力があります。記述が全ての基礎になることは以前ふれました。フォーマルな文章をきっちり書く能力が求められます。

英語の場合、有利です。古田直肇の『英文法は役に立つ!』によると、英語の規範文法は<正式な書き言葉(formal written English)>を<適切に書くための技術>を示したとのことです。この点に意義があります。英語では書くための技術が求められていました。

規範英文法の支配力は今でもまったく揺らいでいません。例えば、アメリカの大学でレポートを書くときには、アメリカ心理学会の出したAPAマニュアル(Publication manual of the American Psyological Association)に従うのが普通ですが、このマニュアルの文法の項目に記載されているものは、驚くほど伝統的な規範英文法にそったものです。

 

2 規範英文法の採った方法

規範英文法は、どういう方法を使って適切に書く技術を示したのでしょうか。古田は言います。<品詞と文型こそが、まさに伝統文法の精髄です。品詞は言葉の種類分けであり、文型は文のパターンの分類です>…ということになります。

英語の場合、語順が厳格に決まっていますから、語順によって品詞を推定することができます。<適切な名詞を主語として使い、動詞を続ける。そして、その後は、使った動詞と表したい出来事の種類に応じて、文型を使い分ける>ことが基本的な手法です。

日本語の場合、文末に述語が置かれるという語順の原則はあります。しかし、その前の語句は比較的自由に並べ替えができます。したがって、英語のように語順を基本にして、品詞と文型のパターンを認識して文章を書いていくのは難しそうです。

 

3 実務家が書く技術を提示すべき

ここで注目すべきことは、英語の場合でも、完璧なルールを示したわけではないということです。江川泰一郎は『英文法解説』で、<英語の文がたった5つの文型で処理できるはずはないが、基本的な構文の説明には5文型が便利である>と注記しています。

古田も<5文型を考案した目的は、文法教育の簡素化・統一化にあった>ことを確認しています。ルールに従って書いていくと、完全な英文ができるなら、すばらしいことです。しかし現実にはルールが複雑になって、簡単に使いこなせなくなることでしょう。

いわゆる行動の指針が重要だということです。業務マニュアルと同じです。実際の業務遂行に関して、現場の人が判断して行動するしかありません。その場合、自分ルールでは組織の目的が達成できませんから、組織は判断基準を示すことになります。

日本語の文法の目的も英文法と同様に、書くための指針を示すことになるはずです。誰もが使える統一性を持った簡素な書く技術を提示することが必要だということでしょう。これは文法学者の仕事ではなく、われわれ実務家の仕事なのだと思います。

 

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