■日本語文の主題の概念と強調語句:「…は-が~」という形式

 

1 「…は-が~」という形式

日本語の文に「…は-が~」という形式があります。例えば、(1)「私はみかんが好きです」、(2)「象は鼻が長い」、(3)「広島は牡蠣が名物です」といった形式の文をみたことがあるはずです。これらは、それぞれ構造のちがう文です。

(1)の主体は「私」で、述部は「好きです」となります。これはあまり問題になりません。(2)が問題になりました。主語論争にもなったものです。「象」が主題で、「鼻」が主格だというのがよくなされる説明です。この説明によると、主語はないようです。

(3)の説明は、いささか戸惑うものです。<「広島」は「牡蠣」が「名物」です>は、<「広島」の「名物」は「牡蠣」です>の変形だというのです。複数の本で、こうした説明をしています。なぜ「名物」と「牡蠣」がひっくり返るのか、理由がついていません。

 

2 「広島は牡蠣が名物です」

「広島の名物は牡蠣です」という例文はシンプルな構造です。「広島の名物」が主体で、「牡蠣です」が述部になります。一方、例文(3)「広島は牡蠣が名物です」の場合、「広島は」…「名物です」は対応関係にありません。「広島は」は、主体ではないのです。

「広島は牡蠣が名物です」の骨格は、「牡蠣が名物です」でしょう。「牡蠣が」…「名物です」が主体と述部の対応関係になっています。この「広島は」は、強調語句と考えるべきでしょう。強調語句は、助詞「は」が接続して、原則として先頭に置かれます。

標準形は「牡蠣が広島の名物です」なのでしょう。「牡蠣が」…「名物です」と主述の対応関係になっている点で、例文(3)と同じ構造です。「広島の」が強調されるとき、「広島は」となって先頭に出されます。これが「広島は牡蠣が名物です」の形です。

 

3 主題と主述関係

強調語句という概念を導入すると、例文(2)も説明が簡単になります。「象は鼻が長い」の場合、「鼻が」…「長い」が主体と述部の対応関係になっています。「象は」は、強調語句だと考えられます。標準形にすると「象の鼻が長い」か「象の鼻は長い」です。

「象の鼻が長い」の「象」を強調するとき、助詞「は」が接続されて、先頭に出されます。この例文の場合、「象」がもともと先頭にありますから、助詞が「の」から「は」に代わるだけです。強調される語句に助詞「は」が付いて「主題」となります。

主題とは、助詞「は」の付く語句だというのが通説のようです。そうなると「私はみかんが好きです」の「私は」も、「広島の名物は牡蠣です」の「広島の名物は」も、主題になります。これらは主述関係が成立しているため、主題ではないと私は考えます。

主述関係を文の中核と考える立場からすると、「主題」となる語句は、主述関係を形成しないものに限定すべきだということになります。「象は鼻が長い」の「象は」や、「広島は牡蠣が名物です」の「広島は」が主題であり、2つの例文は強調文だということです。

 

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