■ことばの習得について:『子どもはことばをからだで覚える』を参考に

 

1 ことばの習得について

ひとが言葉をどう習得するのか、まだよくわかっていません。確立した理論になっていませんから、理論から訓練法を考えるほど安定したものではないと言うべきです。わずかな実験の結果を根拠に、安直に理論化することは慎まなくてはなりません。

著名な『言語を生み出す本能』でピンカーが事例にした「ウィリアムズ症候群」について、正高信男は『子どもはことばをからだで覚える』に、その後<知見は急速に蓄積>され、<ピンカーの描写したほど単純ではないことを明らかにしつつある>と記します。

正高の本で紹介される研究成果についても、まだ多くが仮定の話でしかありません。したがって、考えるヒントになる話がいくつかありますが、よほど気をつけて読むべきでしょう。6つの章からなるこの本でも、1章と2章は参考になると思います。

 

2 メロディーとして把握

第1章で「赤ちゃんはなぜ歌が好きか」が語られます。出生前の子供が、<コミュニケーションをまずメロディーに頼って行う>、そのとき<意味のある体内環境音とは、ただ一つ、母親の発する声に限定される>というのが定説になっているようです。

ここでは「母親のもの」と「それ以外」に、<二分して、知覚している>点が大切でしょう。言葉を操るときに使う原理は、二分法のようなシンプルなもののようです。またメロディーに載せた方が、<微妙な差異にも子どもが敏感に反応>する点も注目されます。

意味を持つ発話を<「メロディー」としての高低と強弱の調子の要素だけで構成>された音に変えても、<新生児の反応はほとんど差が生じない>とのことです。<メッセージはまず、旋律として把握され>、それは音の高低と強弱が基準になっています。

また子供向けの歌い方、<歌い口調が高い音へと移行し、テンポがいつもよりゆっくり>のほうが、新生児の反応がよくなります。音が高くなって周波数変動が顕著なことと、減速したテンポが好まれるという<知覚の特徴>が、ことばの習得に関連するようです。

 

3 分節化と記憶

2章の「記憶することのはじまり」では、分節化がまず取り上げられます。<「これはボールよ」という文中から、必要な音のまとまりを切り出>すのは大変なことでしょう。ことばの習得には、<何らかの方法で適切に分節化することを求められる>のです。

それが<発話に「めりはり」がつけられる>理由にもなり、<文や句や節や個々の境界近くで、音の周波数を上げたり下げたりするのが、いちばん典型的な手法>です。また息つぎのときのポーズが、<文と文、句と句あるいは語と語の間>に入ることになります。

乳児は、こうして<切り取った情報をいわば「なじみのあるもの」として貯え>、<長期の語彙記憶>にしているようです。<ことばを一種の音楽として知覚>した後、<メロディーの要素は切り捨てられ>、日本語なら50音の<音素を把握するように>なります。

日本語の場合、助詞があるため、<「車が橋の上を走っている」と表現する代わりに、「ブーブー、ハシ、走ってる」と助詞を省>く独特な「赤ちゃんことば」が多用されるようです。この次の段階で、助詞は音として把握され習得される…と私は考えています。

 

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