■三島由紀夫の創作方法:文章の書き方のヒント

 

1 三島由紀夫の小説作法

三島由紀夫の小説は読みやすかったせいか、『仮面の告白』『宴のあと』『音楽』など複数回読んだものが何冊かあります。三島は法制史専攻の友人から、<お前の小説のメトーデ(方法)は、法制史のメトーデと同じだから、わかりやすい>と言われたそうです。

<軟体動物のような日本の小説がきらひなあまり><小説の方法論としては、構成的に厳格すぎる><リゴリスム(厳格主義)を固執するようになった>と「私の小説作法」で言います。三島が<小説の方法に似てゐるな、と思ったのは、刑事訴訟法>だそうです。

「わが創作方法」でも、<私の潜在意識は、無限定無形式の状態では、どうしてもいきいきと動き出さない>、<何かで縛り、方向と目的をきっちりと決め、そこにいたる道筋を精密に決めてからでなくては、心が自由にならない>と記しています。

三島の小説は、かつてほど読まれなくなっています。淀川長治が以前、三島の小説を論文的によく出来ている、と否定的に語っていたのを読んだ記憶があります。その通りでしょう。いまでは「わが創作方法」を文章の書き方のヒントとして大切にしています。

 

2 主題の発見

三島の創作方法は、4段階で構成されています。第一が、主題の発見です。<材料はどこにもころがつてゐる>が、自分の<内的欲求が丁度それに相応する>ものを見つける必要があります。探すうちに、あるとき<材料とともに主題を発見>することになります。

ただ主題が、はじめのうちは<何故それがそんなに魅力があるのか>わからないため、<無意識にそれに惹かれてゐた気持ちを徹底的に分析して、まづすべてを意識の光の下へ引きずり出し>、材料を<抽象性にまで煮詰め>ることが必要となります。

主題を探すうち、あるとき魅力的なものが発見されるけれども、その時点では本当の美点がどこにあるのか、よくわからないものです。「私の小説作法」では、<それを論理的に追ひつめ>るうち、主題が<現前する>と書いています。いわば仮説ができるのです。

 

3 文章の出来上がる段階

これだという主題(仮説)をつかんだら、第二に環境を研究することだと言います。<むしやうに参考書を買ひ込むのもこの段階>とのこと。資料や情報を集めてノート作りをするのがこの段階のようです。事例研究や調査をして検証していくことになります。

第三は、構成を立てる段階になります。<最初に細部にいたるまで構成がきちんと決まることはありえず>…というのが普通でしょう。そこで、<大ざつぱに序破急を決め、大きな波形を想定しておく程度にしておいたはうがよい>…ということになります。

第四が、書きはじめる段階です。<書きはじめるのと同時に><書きだす前はあれほど容易に見えたすべてのことが、何といふ困難で充たされてしまふことか>と三島は書いています。この段階では、もはや方法論などは存在しません。

<細部と格闘し、言葉と戦つて、一行一行を進めるほかはない>のですが、このとき<私を助けるのは、あの詳細なノオトに書きつけられた、文字>だということです。抽象化された主題に「具體的なもの」を取り入れることが出来たとき、文章ができあがります。

 

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