■引用の仕方を学ぶ:『文章のみがき方』を参考に

 

1 引用の効果

辰濃和男の『文章の書き方』は、ロングセラーになっているそうです。評判のよい本なのでしょう。相性というものがあるらしく、いくつかのページをめくって、そのままになりました。今回、同じ著者の『文章のみがき方』を読んでみました。なかなかよい本です。

<本を読んでいて、気に入った文章に出あうと、それを書き抜くことがあります>という文章から、この本は始まります。<書き写した言葉のうち「文章論」に関するものだけでも整理しておこう>ということになって、この本が出来上がったそうです。

38の文章をもとに章立てされています。引用された人の考えに共感をこめて、寄りそった書き方をしています。自分で実行していなくても、他人の考えに賛意を示すことで、自分の言葉だけでは言いにくいことが言える…という効果があります。

 

2 秀逸なコメント

最初の項目は「毎日、書く」です。小説家よしもとばななの談話を引用しています。これを見ると、自分の考えとして毎日書いた方がよいと主張するよりも、よしもとの談話をもとに、毎日書くことが大切なのですね…と語る形式の方が、効果的なのがわかります。

「旅行に行って10日くらい書かないことはありますけど、そうすると10日分へたになったなと思います。ピアノと一緒なんでしょうね。書くというベーシックな練習は毎日しないといけません」

あまり芸のない言い方なのは、雑誌掲載の談話だからでしょう。この引用を掲げたあとに、よしもと自身が自分のエッセイはプロ的でないと語っている文章を引きます。そしてエッセイの出だしを並べて見せるのです。そこに秀逸なコメントを付しています。

短くて、具体的で、日常的で、一見、気楽に書いているようにみえる文ばかりです。練習のためにはまず、こういう形で、気負わずに最初の一行を書いてみればいいんだという気持ちにさせてくれる、きわめて単純な文章が圧倒的に多い。

 

3 引用の仕方を学ぶ

自分の意見を直接言う代わりに、有名人がこう言っているというのは、なんとなく逃げに見られがちです。しかし、この本では著者が共感する文章を引くことで、効果を上げています。引用する文章の質が高いためでしょう。そのため主張に広がりを与えています。

毎日書くということについて、その後の章で宇野千代の文章を引いています。<書く前に座ることです。小説は誰にでも書けるが、毎日、どんなことがあっても座ると言うことは、誰にでも出来ることではありません>…という芸ある言葉を中心に引いています。

前のそっけないよしもとの談話と同じことを言っているようですが、両者がうまく調和して、響きあっています。こうした引用が可能なのは、豊富な読書の裏づけがあるからにちがいありません。それだけでなく、読みがたしかであることが、必須の条件でしょう。

かつて引用の重要性を語った鹿島茂の読書論を紹介しました。そこでいう引用は、文章の書き抜きのことでした。書き抜いた言葉をどう使ったら効果があるのか、それを考えるとき、『文章のみがき方』は参考になります。よい実例がたくさん並んでいます。

 

 

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