■価値判断とビジョンについて 2/2 業務の現状把握の意義

1 ビジョンは簡単に得られない

前回、現状把握のあとを価値判断がついてくると書きました。価値判断の問題は社会科学における大問題です。いまでも意識すべきポイントだろうと思います。価値判断の問題をビジョンと関連づけた私の立場は、一般の考えとすこし違っているかもしれません。

2種類のコメントが頂けました。一つは、ビジネスでの実践者から、現状把握からスタートすべきことを実感しているとのコメントでした。もう一つは、ビジョンが先にあるのではないかというコメントです。今回、すこし角度を変えて書いてみます。

ビジョンとはどんなものか、垣間見えるお話があります。「日本経済の二重構造」などで著名な篠原三代平が文化功労者に選ばれたときのこと、「数字読み グラフ眺めて五十年」との句に、板垣與一は「変化のさき読む ヴィジョン ひらめく」とつけたそうです。

篠原は自らの姿勢を<「実証性」「パイオニア性」「論争喚起性」>と規定し、「視角、仮説、判断」が必要だと言っています。ビジョンをもつには、これらが必要なようです(『峠みち その三』)。簡単にビジョンが得られるわけではない、ということです。

 

2 偉大な経済学者にヴィジョンあり

分析の前にビジョンがあるとシュンペーターは主張しました。経済学ではきわめて早い時期の指摘です。もしかしたら、価値を持ち込むことを最初に提言したのはシュンペーターなのかもしれません。価値判断を持ち込む立場は、経済学では現在も少数派でしょう。

経済学の場合、かならずしもビジョンを必要としません。たとえば、<クルーグマンに「経済分析」はあっても「ヴィジョン」のかけらも見当たらない>と根井雅弘は言います(『ガルブレイス』)。たんなる目標値があるだけではビジョンになりません。

偉大な経済学者にはヴィジョンがある、と根井は言います。ケインズは第一次大戦後、投資機会がほとんど消滅したのに、貯蓄意欲は強く残っていると洞察したのです。この<「ヴィジョン」を「経済分析」へと昇華させた>のが『一般理論』だと評価しました。

篠原にしろケインズにしろ、まず現状を把握しようとしました。その把握から絵図を描いたのです。ある種の構図が価値基準・価値判断とあいまってビジョンを形成させるようです。ビジョンには価値が入り込むがゆえに、ビジョンから分析が可能になるのです。

 

3 見事だったディズニーのSCSE

ビジネスの場合、経済学よりずっとわかりやすい話になります。収益目標だけを指針とする企業など、社会に永続していけません。どんな組織であるべきかを考えることは、組織の存立そのものに影響を与えます。そのとき組織の価値が必要です。

例えばディズニーテーマパークには、Safety(安全)、Courtesy(礼儀正しさ)、Show(ショー)、Efficiency(効率)を示す「SCSE」という行動規準があります。<「SCSE」は、その並びがそのまま優先順位を表しています>…とHPにあります。

<東京ディズニーランド、東京ディズニーシーを運営するにあたって最も大切にしている基準>がもとになって、大震災のときの対応で賞賛を浴びました。現場で行われる業務を把握しているからこそ、各スタッフが自然に動ける指針を提示できました。

多くの組織で、こうした見事な指針を持てずにいます。そういう時、現状把握からはじめてみたらいかがでしょうか。その過程で見えてくるものがあるはずです。これを記録して育てることにより、業務の仕組みが変わります。指針も出来てくるはずです。

 

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