■業務マニュアルとミッション:岩田松雄『ミッション』を参考に

 

1 低離職率なら教育投資の価値がある

岩田松雄(元Starbucks Coffee Japan CEO)の『ミッション』を読みました。<スターバックスには、サービスマニュアルがありません。もちろんコーヒーの入れ方や店舗運営など外資系らしく詳細なオペレーションマニュアルがあります>…とお書きです。

では、どのようにして質の高い接客サービスを提供するのでしょうか。ミッションを徹底的に教育して、権限を委譲することにより実現しているそうです。パートナーと呼ばれるアルバイトの教育に、70時間が使われます。時間をかける必要があります。

時間をかけてミッションを理解してもらえると、パートナー達の定着率がよくなるのです。教育に時間をかけても、定着率がよければ割に合います。前の職場の離職率を2年間で、22%から2%に下げた経験がありました。その経験から勝算があったのでしょう。

 

2 「なぜ」を考えるスタッフが必要

サービスに関するマニュアルがないのは、わけもなく継続しているうちに、ルーティン化して、こころが入らなくなるためです。<「こんにちは」が知らず知らずのうちにマニュアル化してしまったのではないか>…とのことです。

「マニュアル化」とは、ルーティン化・規格化のことです。それではダメです。<「なぜそうするのか?」を、しっかり理解してもらうこと>が大切です。「なぜ」を考えるスタッフを育てる必要があるのです。考える際の判断基準が、ミッションになります。

いくらマニュアルにたくさんのケースを書き込んでも、想定外のことが起こるのが現実。ならば、根本となるミッションの教育さえしっかりしていれば、その場その場で判断して対応できる。

 

3 モノを扱う業務とヒトが中核の業務

『ミッション』でのお話は、再定義されつつある業務マニュアルの先取りをしている、とも言えそうです。業務の標準化のために、業務マニュアルに詳細な手順や指示を記述しても、成果はあがりません。標準化された手順が、付加価値を生むわけではありません。

モノを扱う業務の場合、「詳細なオペレーションマニュアル」が役立ちます。しかし、人の行為を中核とする業務の場合、詳細に規定されたマニュアルでは、質の高い業務は出来ません。ヒトとモノを同列の基準で扱うわけには行きません。

人の行為を中核とする業務の場合、指針を示すこと、whyを考えることが、とくに大切になります。[マニュアルにおける whyと how][定着する業務マニュアル・効果の持続する業務マニュアル]に書いたとおりです。これが付加価値を生む源泉になります。

 

4 ミッションの大切さ:根源的な問い

岩田松雄は、ミッションの大切さを4つに集約します。(1)想定外のケースに対応するのに原理原則が必要なため、(2)人間集団のベクトルを合わせる明確なゴールが必要なため、(3)共鳴する同志を集めるため、(4)モラルがあがり離職率が減るため…です。

ミッションを作るときのヒントが示唆に富みます。働き方ではなく、働く目的を考えること、そして、自分もミッションも成長させていくことが大切だと主張します。最初から立派なミッションなどなくてよいということです。

「好きなこと・得意なこと・人のためになること」を中核に、考え続けることが大切だと指摘しています。なぜ私は働くのか、何のために働くのか、そうした根源的な問いかけが、今後ますます大切になってくると思います。

 

 

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