■「名詞文・形容詞文・動詞文」への疑問

1 詳細なルールは使えない

英語の5文型をご存知だと思います。5つの文型のすべてが「S+V」から始まっています。Sは主語、Vは述語だと説明されます。英語の場合、述語はつねに動詞です。その点、日本語は、述語が動詞に限りません。英語との大きな違いです。

日本語を述語で3つに分ける考え方が通説になっています。述語が名詞である文を「名詞文」、形容詞の文を「形容詞文」、動詞の文を「動詞文」と呼んでいます。しかし、述語の品詞によって日本語の文を3つに分けることに、何か意味があるのでしょうか。

優れた文法学者の佐治圭三は、1976年と1977年の論文で、動詞述語、形容詞述語、名詞述語についてまとめています(『日本語の文法の研究』所収)。各述語の型ごとに分析された詳細な一覧表はすばらしいものだと思います。

しかし、ここまで分類してしまうと、私たちが読み書きをするときには使えないだろうと思います。読み書きに役立てるという目的ならば、また別のアプローチが必要でしょう。もっと簡潔・的確なルールが必要です。

信号のように瞬時に判断できるほどでないにしろ、シンプルなルールで、私たちは言葉を運用しているはずです。その意味からすると、読み書きの際に、述語の品詞で分ける積極的な意味がよくわかりません。具体的な問題をご覧いただきたいと思います。

 

2 用法から考える

就職試験に使われることが多いSPI試験の言語分野では、例文と同じ用法を選択する問題が出されます。例えば、「雨が雪になった。」と同じ用法はどれでしょうか。
(1) 彼女は図書館に行った。
(2) コンサートは成功に終わった。
(3) 今後について、私たちは彼に一任した。

おそらく簡単なはずです。正解は(2)です。何となく感覚でわかるはずです。ところがわからない人に説明しようとすると、説明できなくなる人があんがい多いのです。こういうとき、上位概念が明確なら、簡単に説明がつきます。

「雨が雪になった」の「雪に」は、結果としてどういう状態なのかを示しています。(2)の「成功に」も結果としての状態です。一回言われれば、そうだそうだ…と納得するはずです。私たちは、知らないうちに、上位概念を意識して使い分けています。

普段私たちは、「状態・状況」を意識しているようです。「状態・状況」という概念が広いため、ときどき混乱して不安になることがあるのでしょう。その場合でも、結果としてどうなったかですよ…と言われれば、すぐにわかるはずです。

上記の(1)~(3)は、すべて動詞述語(動詞文)ですが、しかし、用法は違っています。同じ動詞文でも、「私は酒が飲める」「私は酒が飲みたい」と「私は酒を買った」「私は酒を飲んでいる」では、用法が違います。「が」と「を」が使い分けられています。

 

3 「状態・状況」と「行為・存在」

先の例題にある文の用法を分類するなら、「状態・状況」を示す文と「行為・存在」を示す文に分かれる、という基準のほうが実際的です。助詞の用法も、品詞による使い分け以上に、意味内容を示す機能的な役割を果たしています。

「雨が雪になった」「コンサートは成功に終わった」は状態・状況を示す文、「彼女は図書館に行った」「今後について、私たちは彼に一任した」は行為・存在の文に当たります。すべて助詞「に」が使われますが、機能が違っています。

日本語の読み書きのルール「日本語のバイエル」では、述語・述部の捉え方自体、違ってきます。「雨が雪になった」の述語・述部は「雪になった」です。「コンサートは成功に終わった」の場合、「成功に終わった」が述語・述部になります。

一方、「彼女は図書館に行った」なら、述語・述部は「行った」となり、「今後について、私たちは彼に一任した」に関して、述語・述部は「一任した」になります。状態・状況の場合と、行為・存在の場合では、助詞の機能が変わると考えます。

「私は酒が飲める」「私は酒が飲みたい」と「私は酒を買った」「私は酒を飲んでいる」については、もうお分かりでしょう。前の2つが状態・状況にあたり、後の2つが行為・存在にあたります。そのため、助詞が「が」と「を」の違いになって現れます。

日本語を基本文型に分けるとき、名詞文・形容詞文・動詞文に分類してもあまり意味がないでしょう。それよりも、「状態・状況」と「行為・存在」に、「説明・定義」を加えた3類型で考えるべきだというのが、日本語のバイエルの発想です。

*追記 :形容詞文について、「形容しない形容詞」でも言及しています。

参考: 主題および主語という概念:日本語のバイエル一筆書き

 

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