■「3時間でわかる西洋哲学史入門」のさわり:『ヨーロッパ思想入門』を参考に

1 3時間でわかる…?

ときどき時間があるときに、単発の講義をさせていただくことがあります。少し前に、2コマで西洋哲学の講義は可能でしょうかと言われました。公務員試験の受験をする大学生に、西洋思想史(哲学史)のお話をするのは、なかなか楽しそうでした。

3時間ですから、大枠を示す程度で終わりです。試験問題が解けるくらいの知識はないと困りますので、補充しました。そんなにたくさんの知識が必要なわけではありません。
「3時間でわかる西洋哲学史入門」と勝手に命名して、2コマの講義をしてきました。

わりあい反応が良かったという話をしたところ、どんな内容なのかと聞かれました。そのときのままではありませんが、大雑把なお話をしたところ、おもしろいから書いておけば、とのこと。そのさわりを、以下に、ご紹介いたします。

 

2 自己実現を主張したアリストテレス

西洋思想は、ギリシャ思想とベブライ信仰が基礎になっています。この大枠を押さえておきましょう。これは、岩田靖男『ヨーロッパ思想入門』の体系です。妥当なものだと思います。簡潔な西洋思想史の本として、よく出来ています。これを参考にすすめます。

ギリシャ哲学の代表的な哲学者が、ソクラテス、プラトン、アリストテレスであるのは、ご存知でしょう。ソクラテスには自らの著作がなくて、ほとんどプラトンの本から、ソクラテスの思想を探っていることも、ご存知だろうと思います。

では、アリストテレスはどうでしょうか。アリストテレスの場合、講義録が中心になっているため、テキストが確定しているわけではありません。本当にアリストテレスがどう言ったのか、わからないところがあります。

現存する彼の著作は、彼自身の学園リュケイオンで彼がおこなった講義の草稿とみなされる極度に簡潔なノート類だけで、前1世紀にロドスのアンドロニコスが編纂したものである。

アリストテレスの考えの中で、注目されるもののひとつは、自己実現の問題です。「自己本来のはたらきの発揮が善である」とアリストテレスは考えます。自己実現が幸福につながる…という考えのもとになっているようです。

ヨーロッパ哲学の基礎を作ったのはアリストテレスだ、といわれます。はじめて体系的な哲学を作り上げたのです。ここでは、西洋哲学を理解する切り口として、真理に対する態度に注目したいと思います。

 

3 真理に対する態度の違い:ポストモダンへの道

プラトンは、真理が見出せたなら、それで十分だと考えました。証明が大切なのです。アリストテレスは、証明できないこともあるから、説得することが大切だと考えました。修辞学(レトリック)が必要になります。この考えは、ローマ時代に引き継がれています。

その後、12世紀に大学が生まれたときにも、アリストテレスの考え方が引き継がれています。このとき共通語になったのがラテン語でした。ラテン語を読み書きすることが教養の基礎になります。必須科目となったのは、文法学・論理学・修辞学の3つです。

その後、状況が変わります。1596年にデカルトが生まれました。デカルトは近世哲学の父といわれます。モダンの価値観の源流です。デカルトは理性を重視しました。因果関係を重視し、部分と全体の関係において、部分を重視しました。理性主義と呼ばれます。

理性こそが、真偽を区別する能力であり、この能力は全ての人に平等に備わっていると考えるのです。ですから、先入観を排除して本来の能力を正しく使えば、すべての人は真理に到達できるということになります。修辞学など不要です。

では、現代はどうでしょうか。プレゼンをやらなきゃいけないとか、営業が必要とか言いますね。説得じゃだめで、納得してもらう必要があるという言い方もありますが、いずれにしろ修辞学つまりレトリックが必要だと考えています。

この点からすると、現代が、ポストモダンであるのはたしかなようです。モダンの価値観とは違うということです。真理に対する態度でも、このように哲学の変遷が見えてきます。縁遠いように見えますけれども、哲学も、なかなか面白いものです。

- こんなところから話を始めてみました。デカルトの『方法序説』を読んでいた学生が何人かいました。哲学の本の場合、自己流をおそれずに読んでみることが大切ではないでしょうか。同時に、自分の気に入ったガイドブックが必要だなあ…と思います。

 

 

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