■いわゆる「企業家精神」について:シュンペーターの考え

1 シュンペーターのいう「企業家」とは

イノベーションと結びつけて、企業家精神が大切だという言い方がしばしばなされます。ドラッカーは『イノベーションと企業家精神』という本を書いていますから、両者が結びつくのは当然のように思えます。

おそらく「企業家」という概念を明確にしたのは、シュンペーターなのでしょう。シュンペーターはイノベーション(新結合)を行う人を企業家と呼んでいます。そこから、「企業家精神」が必要だという話になっていったようです。

しかし、シュンペーターは、イノベーション(新結合)を担う「企業家」と「精神」を結びつけていません。企業者とは、「変動機構の担当者」(『経済発展の理論』)であって、機能を担う存在です。

この点、川勝平太は『経済史入門』で、「企業家精神という言葉がシュンペーターと結びつけられて使われる」けれども、≪「企業者精神」とは、シュンペーターの「企業者」とウェーバーの「資本主義の精神」の折衷概念です≫…と注意を促しています。

≪シュンペーターの「企業者」は、特定の個人に結びついたものではなく、純粋に機能を示す概念です≫…ということです。シュンペーターは、ウェーバーの「精神(エートス)」を排除すべきだ、と考えていたのです。

 

2 ウェーバーとシュンペーター

マックス・ウェーバー(1864-1920年)とヨーゼフ・シュンペーター(1883-1950年)は世代の違った同時代人でした。両者の考えは、ずいぶん対照的です。ウェーバーとシュンペーターは、激論を交わしたこともあるようです。

DIAMOND online「シュンペーターの冒険」に「社会主義の是非をめぐり、カフェで激論 激高するウェーバー VS 冷笑するシュンペーター」という記事があります。この激論は、ヤスパースの論文で有名になりました。もとはゾマリーの回想録にあったそうです。

ロシア革命に、シュンペーターは満足の意を表したというのです。ウェーバーは、「前代未聞の悲惨さを導き、恐るべき破局に終わる」と激高したそうです。ウェーバーには『社会主義』という、講演をもとにした本があります。きわめて優れた分析です。

この講演での分析のように、ウェーバーは現実が見えていました。しかし、理論は残りそうにありません。『プロテスタンティズムと資本主義の精神』のことを、ドラッカーは間違っていると一刀両断しています。特異な評価ではないでしょう。

一方、時局の読みがしばしばあやしいシュンペーターの場合、その理論は残りそうです。イノベーションの理論を中核にして、ここから経営学が発展していきました。「企業家」はその中核的概念に当たります。

 

3 いわゆる「企業家精神」

シュンペーター論文集『企業家とは何か』の編訳者である清成忠男は、まえがきに記しています。

entrepreneurshipはしばしば「企業家精神」と訳されているが、正確には精神をも含めた企業家の全体的な行動をさしているので、本書では「企業家活動」と訳した。企業家精神に相当する言葉は、entrepreneurial spiritである。欧米の多くの研究者は、entrepreneurshipとentrepreneurial spiritを使い分けている。

ドラッカーの『イノベーションと企業家精神』の原題は、“Innovation and Entrepreneurship”です。ここでの「企業家精神」には、固有の「精神(エートス)」が含まれていません。ドラッカーもそれを認めていません。

≪変化を探し、変化に対応し、変化を機会として利用する。これが企業家および企業家精神の定義である≫ということになります。“entrepreneurial spirit”とは一線を画しています。

「-ship」は「~らしさ」という意味を付加するもののようです。リーダーシップが、リーダーらしさであるように、アントレプレナーシップは、企業家らしさという意味だろうと思います。

≪「企業者」と「新結合」は、経済発展という一つのメダルを、一つは主体を、一つはその行為を表現したもの≫(『経済史入門』)です。私達はもう一度、イノベーション(新結合)とは何か、を考える必要がありそうです。

 

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