■ビジネス文書の書き方 3:「自説中心」の論理

▼アメリカの論文作法

中井久夫は、精神科医にして文学者である多才な人です。『清陰星雨』で、日本語による論文構成について書いています。日本語で書く論文は、原則として起承転結で書くのに、アメリカにおける論文の書き方は違う、それを知って驚いたというのです。

起承転結といっても、中井のいう形式は、「転」の部分で自説と違った観点に触れ、視野を広げたうえで結論を示す形式のことです。ところがアメリカでの論文形式は、自説のみに集中して記述するというものです。異論や別の観点は、別の論文に書くそうです。

このアメリカ方式が、ビジネス文書の書き方の基本です。自説のみを明確に記述し、批判を求めることによって、客観性や視野の広さを確保することになります。しかし、これだけではビジネス文書にはなりません。

中井は、同じ本で、≪一般にドイツ人は網羅的な「ハントブーフ」を作るのがうまい≫ ≪これに対して米国人は作業を簡潔に文字化する「マニュアル」を作るのが上手である≫と言っています。

ここで言う「ハントブーフ」とは何千ページにも及ぶ体系的な文書であり、「マニュアル」とは、簡潔に記述された「取扱説明書」のことです。ここで示された「体系的」なことと「簡潔」なことは、ともにビジネス文書に必須の要件になります。

 

▼「自説中心」に論じる理由

ここにいう簡潔というのは、自説中心に必要最小限のことを記すことです。簡潔な記述をするためには、概念の明晰さが必要であると「ビジネス文書の書き方 1:基礎編」に記しました。では、なぜビジネス文書では「自説中心」に論じるべきなのでしょうか。

一番の理由は、ビジネスには目的があるという点です。ビジネスを行う主体は、企業という組織です。組織には目的があります。目的を中心にすえると、その組織の目的、使命を基礎にして論じることになります。これがビジネス文書における「自説中心」です。

ただ、それだけでは不十分です。ビジネスでは、業務を仕組みにすることが求められています。ビジネス・モデルを作るように業務を体系化することが求められます。もう少し複雑な仕組みを記述する場合がでてきます。そのとき、体系的な思考が必要となります。

簡潔さを発展させたアメリカの土壌に、体系的思考をもつウィーン学派の要素が加わって、ビジネスがアメリカで発展したのでしょう。マネジメントを体系化したのが、ウィーンからアメリカに移住したドラッカーだったというのは、偶然でないように思います。

 

▼どこに焦点を当てるか

ビジネス文に、その人の業務能力がにじみ出るのは、この目的意識にもよります。自分の業務は、何のために行われるのか、どんな使命をもって行っているのか、こういう意識が重要になります。

三人の石工のお話がありますね。三人が、何をしているのかと聞かれたときのことです。
第一の男の答えは、「これで暮らしを立てている」。
第二の男の答えは、「立派な建物を建てている」。
第三の男の答えは、「人々が祈りを捧げる大寺院を作っている」。

ビジネス文書においても、(1)何をしているのか、(2)どのように行っているのか、(3)何のために行っているのか、これらを、第三の男のように語れたらよいなあ…と思います。焦点を当てる使命・目的の部分が、ビジネス文書の価値を決めています。

作成した文書を見ることで、その人の実務能力がある程度見えてきます。文章の的確さに加えて、その人の姿勢が、文章から垣間見えるためでした。これは、ビジネスセンスに直結する問題であると思います。 (4 「体系化の手法」)につづく。

 

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