■「は」「が」をめぐって その3


▼用語の整理

日本語上級者の高さんが、「は」「が」の使い分けについて教えてくださいました。彼女が使っている用語は、一般の文法書とは違っています。しかし、間違っている感じがしません。文法用語の方がおかしい気がします。用語の整理が必要だと思います。

【第1ルール】能力や意思を表したい場合、主題の後に「が」が来る。

ここで「主題」という用語が問題になりました。主題というのは、テーマのことです。トピックとも言われます。助詞「は」は、トピック・マーカー(topic marker)だという言い方があります。「は」がつく語句は、その文のテーマ、主題の印だということです。

しかし、主題というのはわかるようでわからない概念です。

 

▼主題という概念はわかりにくい

ためしに、二つの例文をあげてみます。主題という概念を確認して見ましょう。
(1)「酒は飲みたくない。」
(2)「酒が飲みたくなる。」

(1) の主題は「酒」ですね。「は」がついていますから。もし酒を話題にしているから、酒が主題になるというなら、(2) も話題は酒ですから、「酒が」も、主題だと言いたくなります。しかし「が」の接続だから、主題ではないのでしょう。わかりにくいですね。

 

▼主体という概念は明確

主体でないものに「は」が接続する場合はあります。「象は鼻が長い」という場合、長いのは象ではありません。よって、「象」は主体ではありません。では「象」は何ですかと聞かれたとき、「象」は主題ですと答えると、何だかそんな気になります。

主題は、「-は」の説明には便利な概念ですが、「は」が接続したら主題で、「が」の接続なら主題でなくなるという説明では、書くときの使い分け基準にならないでしょう。もう少し主題の概念が明確でないとわかりにくいですね。

この点、主体なら概念が明確です。主体と述部には対応関係がありますから、主体の判別は可能です。説明の主体、状態・情景の主体、行為・存在の主体はわかります。

 

▼第1ルールの修正

高さんの第1ルールを修正しましょう。
≪能力・意思・好悪を表す場合、その対象となる「ひと・もの・こと・場所」に「が」がつく。この文に主体を記述する場合、「は」がつく。≫
何だか冗長な説明ですね。高さんの言う「主題」が恋しくなります。

第1ルールの「主題」は、私のいう「焦点」だろうと思います。焦点という概念は明確です。【焦点】=【必須要素】-【主体+述部】です。それなしには文が成立しない要素を必須要素といいます。英語なら「S・V・O・C」が必須要素です。

「焦点」という用語を使って記述すると、以下になります。
【第1ルール】
・能力や意思、好悪を表す場合、焦点の後に「が」がつく。
・この文に主体を記述する場合、主体の後に「は」がつく。

(この項つづきます。)

This entry was posted in 日本語. Bookmark the permalink.